円高対策 ツアーで海外口座

長引く円高や資産保全などを理由に、海外の銀行預金や金融商品に関心を示す人が増えている。旅行会社が行う口座開設ツアーが反響を呼び、海外の金融機関の視察をアテンドしてくれるサービスも好評だ。ただ、勝手が違う海外の場合、口座凍結などトラブルも少なくない。専門家は「事前にリスクを見定めて」と注意を呼びかけている。
 ■「利率はるかに高い」
 東京都渋谷区の会社役員の男性(32)は6月、神奈川県藤沢市の旅行代理店エイトバードの「中国人民元(げん)口座開設ツアー・マカオ滞在3日間」(http://www.8bird.com/investour/)に参加した。広東省珠海の中国銀行の支店で元建て預金口座を通訳付きで開設できるツアーで、男性は普通預金(0.36%)と定期預金(2.25%)の両方に、計1000万円以上預金した。
 「資産運用というより、リスク回避。1つの通貨だけで資産を持つのはあきらかなリスクだと思います。ツアーに参加して価値観が近い人と知り合えたこともよかったです」
 ツアーが始まったのは6月。現在までに約40人が参加した。「定期預金の利率は日本よりはるかに高い」「中国でビジネスをしたい」など参加理由はさまざま。共通するのは中国の成長期待で、人民元の切り上げを期待する人も。低額からの口座開設も可能で、代理店への問い合わせは増えている。
 また、海外の銀行や保険会社、証券会社の視察をアテンドしているオーバル(本社・東京都港区)にも、問い合わせが多く寄せられている。4年前は月5、6人だった視察申し込みは、現在月200~300人に増加。「勉強会も全国各地で開いています」(前多清志社長)という。
 個人で口座を開設しに行く人も。東京都内の会社員男性(26)は昨年6月、香港を訪れ、HSBCに口座を開設した。「20代から海外での資産運用を学びたいと思って決めました。いずれ円安に進むと思うので、(為替差益を狙って)円高の今のうちに外貨を持ちたいという理由もあったので。借金が多い日本の国自体がどうなるのか、という不安もあります」と話す。英語を学び、ファイナンシャルプランナーの資格も取得。「将来は海外の金融機関から得られる運用益や利息だけで生活するのが夢です」
 ■いきなり凍結 リスクも
 『金融商品とどうつき合うか』(岩波新書)などの著書がある東海大学の新保恵志(しんぼ・けいし)教授(金融論)は、「日本の銀行の信用力は20年前に比べると格段に低下している。多額の資産を持つ人が、資産保全のために海外に目を向けるのは理にかなった行為。若い世代でも年金問題などで将来の資産形成を真剣に考える人が増えていると思います」と話す。
 ただ、海外の金融機関にもリスクはある。マネックス・ユニバーシティの内藤忍社長は「海外には夢のような金融商品があるという幻想だけで資産を移すのは危険。もしトラブルになったとき、英語で対処できるのか? 真夜中でもサポートしてくれる人がいるか? などを事前に考える必要があります」という。
 例えば、ドバイの、ある証券会社は日本語サービスをしていたことでドバイ株を購入する日本人の顧客を増やした。だが、今夏、日本語サービスを打ち切ったうえ、株を売却するか他の証券会社へ株を移すか突然通知してきた。HSBCの預金者の中にも、サービス内容を十分に理解していなかったため、口座を凍結された例が少なくない。
 内藤さんは「国内でも資産の分散方法がたくさんあります。メリットやリスクなどをしっかり見定めて運用先を選ぶことが大切。また、同じような投資をしている個人投資家と日頃からネットなどを通じて相談相手を作り、予期せぬ事態に備えるのもいいと思います」と話している。
 (安田幸弘/SANKEI EXPRESS)

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