栃木県では1カ月当たりの死者数が冬に入ると春~秋の1.25倍になり、全国最悪の死亡増加率となっていることが慶応大の伊香賀俊治教授(建築環境工学)らの分析で明らかになった。伊香賀教授は、二重サッシなどによる住宅の断熱が遅れている影響を指摘。「我慢せず、適切に暖房を使うことが第一」と呼び掛けている。
【林田七恵】
冬は寒さで血圧が上がりやすく、全国的に死亡者が増える。そこで伊香賀教授らの国土交通省調査班は、2014年の厚生労働省人口動態調査から毎月の死者数を抽出し、4~11月の死者数と、12~3月と比べた増加率を都道府県ごとに算出した。
栃木県内では4~11月の死者数は1万2773人(月平均1597人)だったのに対して、12~3月は半分の期間で7982人(同1996人)に上り、増加率は25%だった。一方で、冬の死亡増加率は最も低かった北海道で10%。青森県11%▽沖縄県12%▽新潟県12%▽秋田県13%――と続き、寒冷地の方がむしろ季節による死亡リスクの変動が少なかった。増加率の全国平均は18%だった。
伊香賀教授が要因の一つとして挙げるのが断熱住宅の普及率。県内では二重サッシなどを使った断熱住宅が全体の23%にとどまるのに対して、北海道では8割を超過。調査班による全国約1800軒3600人の調査では、平均室温も、北海道では21度程度を維持していたが、本州以南では16度程度にとどまっている。
更に居間や脱衣場の平均室温が18度未満の住宅に住む人は、42度以上の熱い風呂に入る割合も高く、暖かい住宅に住む人の1・8倍に上った。冷えた体を温めるためとみられるが、高温での入浴は急激な温度差で血圧が大きく変動し失神や心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などを招きうるとして消費者庁が注意を促していて、寒い家に住む人がますますリスクが高い入浴方法をしている悪循環が判明した。
長期的には壁や屋根などに断熱素材を入れる改修工事が有効だが、伊香賀教授は「ホームセンターなどで販売されている窓や床の簡易断熱シートや電気カーペットを使うこともできる」と助言する。
比較的温暖な地域で冬の死亡者が一段と増える傾向は欧州でもみられ、寒冷なフィンランドの死亡増加率が10%にとどまるのに対して、南欧のポルトガルでは28%と3倍近く。英国では血圧上昇や循環器系疾患のリスクを低減するため18度以上の室温を保つよう国が指針を示しているという。