冷静さを欠いた朝日新聞の報道に医師が違和感…企業を悩ます「化学物質過敏症」「香害」精神神経疾患の合併率が42~100%”研究者指摘”

花王が負けた裁判…「化学物質過敏症」「香害」については無視できない大問題

有害な化学物質のばく露を受けたとして、化学物質過敏症に罹患した労働者が、洗剤メーカーである「花王」に損害賠償請求を求めた裁判が行われ、2018年7月には東京地裁が花王の作業現場が違法だったことなどを理由に、同社に使用者責任があるとする原告勝訴判決を下している(両者が控訴しなかったため、判決が確定)。

このように「化学物質過敏症」、及び、「香害」については、近年、朝日新聞などが中心となって盛んに報道をくり返しており、柔軟剤や香料を使う製品をつくる企業、農薬を使う農家にとって無視できない大問題になりつつある。

「香害」「化学物質過敏症」の性質や対処法については多くのことがわかってきている。それにも関わらず、理解をしていないのか、知らないだけのか、調べようとしていないのか、全部を知っていてあえて誤った印象を与える報道を続けるのか……いずれにしても、読むときに注意が必要な新聞がある。「朝日新聞」だ。今回は、朝日新聞による「化学物質過敏症」報道について検証していきたい。ビズリーチを導入した企業は、内定数の増加・採用費用の削減に大きな成果がでています。

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原因は香料、たばこの煙、柔軟剤、化学薬品などの「外部環境」なのか?

まずは、そもそも「化学物質過敏症」とは、いかなる病気なのか。

化学物質過敏症とは、香料、たばこの煙、柔軟剤、化学薬品など、一般の人ではあまり意識できない低濃度の化学物質に過敏に反応する状態を指す。患者は、化学物質にさらされると頭痛、めまい、吐き気、皮膚の発疹、呼吸困難、疲労感など多様な症状を経験することがある。

多くの患者は、原因を香料、たばこの煙、柔軟剤、化学薬品などの「外部環境」に求めているが、研究・調査では全く異なる原因であることを指摘する論文が数多くある。

『科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)』(研究代表者・北海道大学環境健康科学研究教育センターの岸玲子氏、平成 26-27 年度 厚生労働科学研究)は、<保健所などの住まいの相談窓口の方や、学校、職域などで衛生管理を行っている方、あるいは地域の診療機関の医師などが、市民からの種々の質問や相談を受ける際に、どのようなことを知っておくといいのか?その基本的な答えや説明の方法を上手に見つけられるように工夫してあります>として、正しい知識の普及と、相談に科学的根拠を踏まえた回答をするためにつくられたものだ。その中で、化学物質過敏症について記されているのが以下(P50~53)だ。

環境中の化学物質ばく露の種類や濃度とのと因果関係を明らかにした論文はない

まずはざっと読んでみてほしい。

<患者に生じている症状の原因について、環境中の化学物質ばく露の種類や濃度とのと因果関係を明らかにした論文はありません。原因となったとされる環境ばく露が全くなくなってからも症状が続くことなど、従来の中毒症やシックハウス症候群とは病像が異なります>

<(テストする側も被験者にもばく露を知らせないテストによる研究では)科学的には化学物質ばく露と患者さんの反応には関連はなく、過敏状態が低濃度化学物質ばく露によることは説明できません>

<化学物質過敏症を訴える患者さんでは、精神神経疾患の合併率が(42~100%)と高いことが報告されています。そのほとんどが不安障害、気分障害、身体表現性障害であるため、いわゆる化学物質過敏症の発症には、環境要因、特に心理社会的ストレスの関与が示唆されると心身医学の専門家は記述しています>予想以上の価格に?

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環境中の通常濃度の化学物質の毒性との間に関係があるという仮説を支持する証拠はない

化学物質過敏症と精神科疾患との関係は、坂部貢医師による一般に公開されている報告(平成27年度 環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務)にも<精神疾患の合併率が80%と高いため、心身医学・精神医学的アプローチも有効である>とある。化学物質がゼロになっても症状が続く人もいることを踏まえれば、化学物質過敏症の原因を、例えば、洗剤メーカーの責任にしてしまうのは行き過ぎだろう。

2021年には、カナダのケベック州衛生研究所によって、科学文献の4000以上の論文を徹底的に分析したところ、以下の結論が得られたという。<入手可能なデータに基づいて、化学物質過敏症と環境中の通常濃度の化学物質の毒性との間に関係があるという仮説を支持する証拠はないと結論している。したがって、化学物質過敏症患者は化学物質に対して過敏ではない。それにもかかわらず、観察された慢性的な生物学的障害、経験された症状の重症度、罹患者の社会生活および職業生活への影響、および集団における化学物質過敏症の高い有病率は、真の健康問題であると認定している>

化学物質過敏症の患者数は500人未満

自身も化学物質過敏症患者であった医師・舩越典子氏(典子エンジェルクリニック・堺市)は、こう解説する。

「『妄想』が入る患者もいるが、実際に、微量の化学物質に過敏に反応する患者は少数ながら存在し、私自身もそうであった。ただし、どの程度の患者数かというと、患者団体のアンケートなどをもとに坂部貢医師は『日本人の13人に1人』とNHK『あさイチ』で述べていたが、実際の記録を確認すると数は少ない。政府の患者調査(2020年)では化学物質過敏症の患者数は500人未満(0~499人)となっている。つまり、主病名が『化学物質過敏症』で出されたレセプトは、日本の人口が1億2千万人あまりだということを考えると極めて少数ということになる。この数字は、化学物質過敏症だとアンケートでは答えるものの保険治療は行っていない人がいかに多いかを物語っている。また、対象者の選択を含めてアンケートの取り方にも問題があると考えている」

朝日新聞が報じる「患者の声、患者のアンケートや署名活動」

さて、ここで朝日新聞の報道を見ていこう。朝日新聞デジタルで「化学物質過敏症」と検索すると、28件の記事がヒットし、2024年に3件、2023年に9件の記事が確認できる。これらの記事で、とても目を引くのが、患者の声、患者のアンケートや署名活動だ。

<都内の区議や全国の市議らが1月、香料入りの「マイクロカプセル」を配合して香りを長続きさせる製法の中止を求め、柔軟剤メーカー3社(花王、P&G、ライオン)と日本石鹸(せっけん)洗剤工業会を訪問。署名8889筆を提出>(2月19日)

<同会代表で兵庫県宝塚市の寺本早苗市議は1月23日、千代田区で開いた会見で、同市内の小中学生の約8%が「人工的な香料で体調不良を起こしたことがある」との調査結果を紹介>2月19日)

<新潟県立看護大学(同県上越市)の永吉雅人准教授らが、2017年度に同市の市立小中学校の在校生を対象に調査したところ、CSと思われる症状がある児童は10.7%、生徒は15%だった。10年度にも同様の調査をしており、2回(10、17年度)とも調査を受けた児童・生徒を比べると、CSと思われる割合は約2.5倍に増えていた>(2023年8月26日)

<化学物質過敏症の患者は70万~100万人との推計もある。NPO法人「化学物質過敏症支援センター」(横浜市)には年2000件の相談が寄せられているが、「相談者が殺到して十分に対応できていない」という>(2023年4月6日)

政府の患者調査とはあまりにかけ離れた署名活動を報じる朝日新聞、医師が違和感

先ほどの<政府の患者調査(2020年)では化学物質過敏症の患者数は500人未満(0~499人)>とは、あまりにかけ離れた署名数であり、患者数の推計である。先述の舩越医師は語る。

「化学物質過敏症とは、(ごく微量の)化学物質に曝露すると発症するのだが、治すには化学物質とは直接関係のない原因疾患の治療が必要であることや、精神科疾患の可能性が高いことに触れていない報道には違和感を覚える。今、化学物質過敏症をめぐる大きな問題は、患者が症状を訴えるだけで『化学物質過敏症』と診断されてしまい、採血や画像診断などの他覚的な検査なしで、障害年金が受給できてしまうシステムである。主観ばかりが入り込んでしまい、容易に誘導尋問ができてしまう問診の方法(対面方式やQEESI)を見直し、客観的な医学的なエビデンスを積み重ねていくべきだ。少なくとも自由診療などに頼らず、まずは、ビタミンDやガバペンチノイド(リリカ・タリージェ)の投与など、保険診療で十分に有効な治療は行える。NPO法人「化学物質過敏症支援センター」(横浜市)は相談者が殺到していると常々おっしゃいますが、患者さんに対して受診を勧めるケースが極めて少ない現実がある。インターネット上にも、医療機関を受診するなとか薬を飲むなという発信を続ける人がインフルエンサーとなっているのも問題である」

朝日新聞の報道には、患者の声に寄り添うばかりで、今回あげたような医学的ファクトには全く触れていない。洗剤メーカーやタバコを悪者にさえすれば関係者は幸せなのかもしれないが、治るかもしれない、改善するかもしれない疾患の治療開始を遅らせているかもしれないといった冷静な判断も、紙面作りには必要ではないのだろうか。

記事監修者(医療部分)

舩越典子・医師

1965年生まれ。京都府立医科大学卒業後、京都府立医科大学産婦人科研修医、国立舞鶴病院、京都民医連中央病院、清恵会病院等勤務を経て、2001年に「典子エンジェルクリニック」(堺市)を開院。自らが「化学物質過敏症」の患者で治療した経験を持つ。保有資格は、日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、母体保護法指定医師、日本医師会認定産業医。

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