東京電力福島第1原発処理水の海洋放出計画をめぐる、「風評加害」に対する日本政府の戦略が動き出した。来月18日に米国で開催される日米韓首脳会談で議題に上げ、中国が処理水を「核汚染水」と呼び、科学的根拠に基づかない偽情報を拡散していることに、3カ国で対抗する構えだ。日本外務省も多様な言語とSNSを駆使して、正確な情報発信を進めている。
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「米国や韓国をはじめとする国際社会とも協力しながら、悪意のある偽情報の拡散には必要な対策をとる」
外務省の小野日子(ひかりこ)外務報道官は26日の記者会見で、こう言い切った。中国は処理水放出を対日批判の「外交カード」とし、国際社会に偽情報の発信を強めており、看過しない姿勢を示した。
処理水に含まれる放射性物質トリチウムは自然界に大量に存在しており、中国を含む世界各国の原子力施設でも希釈して海洋放出している。
福島第1では、トリチウムの濃度を国の規制基準(1リットル当たり6万ベクレル)の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1に希釈して流す計画。年間排出量は、事故前の管理目標と同じ22兆ベクレル未満を予定しており、国際基準をクリアしている。
これに対し、中国の外交トップ、王毅政治局員は13日にインドネシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会合で、「『核汚染水』の排出は海洋環境と人類の生命・健康にかかわる重大な問題だ」などとイチャモンを付けてきた。
日本外務省は21日、英語版公式ツイッターで、処理水の安全性に関する動画を発信したが、表示数は157万回を超えている。ユーチューブの公式チャンネルに4月に公開されたもので、再生回数は約514万回にも上った(いずれも31日朝時点)。
この動画には、日本語と英語のほか、韓国語、中国語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語などの多言語の字幕も付いている。7月以降も処理水に関する3本の動画を公開した。
西村康稔経産相も30日、福島県相馬市の相馬双葉漁協で漁業者ら6人と会談し、「風評対策で用意している300億円の基金は放出前であっても、必要であれば手当てしたい」「福島の漁業が継続できるよう責任を持つ」などと述べた。
エネルギー事情に詳しいジャーナリストの石井孝明氏は「処理水の風評被害は、中国や韓国左派などによる嫌がらせだ。日米韓首脳会談で連携した発信ができれば非常に期待できる。国際世論にも響く。中国は日本を貶めることで、太平洋諸国の分断を図ろうとする意図もみえる。外務省のSNSへの反応も『科学的に正しい情報を知りたい』という世論の表れだろう」と語った。