東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に、中国と韓国が猛反発している。原子力規制委員会が東電の放出計画を認可したことについて、「安全性の検証が不十分」などとイチャモンをつけているのだ。だが、中韓の原発から放出される放射性物質トリチウムは日本よりはるかに多いというデータもある。専門家は「言いがかりには毅然(きぜん)と向き合うべきだ」と強調する。
規制委は22日、海底トンネルなどを使った東電の放出計画について、安全審査の「合格証」にあたる審査書を正式決定した。
これを受けて韓国政府は同日、緊急の関係省庁会議を開き、放出による「潜在的影響」への憂慮を日本側に伝え、十分な情報提供や安全な処理のための「責任ある対応」を求めることを決めた。
会議終了後の報道資料では、「韓国国民の健康と安全が最も重要だという原則の下、内外で最善の対応措置を取っていく」とした。
韓国は昨年にも国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長と会談し、日本の処理水放出に「憂慮」を伝えていた。
一方、中国外務省の汪文斌副報道局長は同日の記者会見で「日本は極めて無責任だ。断固として反対だ」と反発した。
汪氏は海洋放出の正当性や日本のデータの信頼性、浄化装置の有効性、環境への影響などを巡り多くの疑問が残っていると主張した。
中国共産党の機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)によると、中国外務省の趙立堅報道官は19日の記者会見で、「IAEAによる包括的な評価が未完了の状況でもなお、日本側は海洋放出計画の審査・認可手続きと放出施設の建設を推し進め続けている」と指摘したという。
だが、放出計画は正式な手続きにのっとって進められたものだ。中国や韓国の専門家を含むIAEAの調査団が2~3月に来日、規制委職員からの聞き取りや資料確認などを行い、放出計画の審査プロセスなどを検証した。そして6月16日には、規制委の妥当性を認める報告書を公表した。グロッシ事務局長は「規制委は国際的な安全基準に沿って活動している」と評価した。
そもそも福島第1原発のトリチウム処分方針での年間放出予定量は、年間22兆ベクレルで、国内外多くの原子力発電所と比較しても低水準だ。韓国の古里(コリ)原発は年間91兆ベクレル(2019年)だった。
経済産業省がまとめたアジア諸国のトリチウム年間処分量を比較しても、少なくとも18~19年のデータでは韓国の方が日本よりトリチウムの処分量が多い。中国に至っては18年に日本の8倍に近い処分量が記録されている。
なぜ中韓は日本の処理水排出に反発するのか。東京工業大の澤田哲生助教(原子核工学)は、「中韓が福島第1原発の処理水放出に反対し続ける理由は、自国のメリットに直結するからだ。日本の海産物や農産物に加え、日本がリードしてきた原子力技術についてネガティブなイメージを浸透させることが経済的メリットにつながる。日本国内は電力も逼迫(ひっぱく)状態のため、政治的にもメリットがある」と解説する。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は自国の原発産業を拡大する方針を打ち出している。中国の習近平政権も原発に積極的だ。
日本は、トリチウムの放出にあたって、多核種除去設備(ALPS)でトリチウム以外の大部分の放射性物質を取り除いたうえで「処理水」として保管している。東京電力は処理水に含まれるトリチウム以外の放射性物質が基準値を下回っていることを確認し、トリチウムが1リットル当たり1500ベクレル未満となるよう海水で100倍以上に薄め、沖合約1キロメートルで放出する計画だ。
澤田氏は「日本も海外と同じく処理水のトリチウム濃度を管理する仕組みを用意している。ALPSに数回通して放射性物質を浄化すれば、福島第1の処理水と他国の原発が放出する処理水に差はなく、『原発事故を受けたトリチウム水は質が異なる』という中韓の主張は言いがかりだ。日本のイメージを不当に悪化させる声には毅然と向き合うべきだ」と指摘した。