処理水放出1週間 消費者、冷静な反応 流通や観光の現場に大きな変化なし

東京電力福島第1原発の処理水海洋放出が24日に始まってから31日で1週間が過ぎた。地元の福島県内の消費者は「安全性を理解しており心配はない」と冷静な反応が多く、水産物の目立った買い控えは起きていない。ただ、30年程度続くと見込まれる放出は始まったばかり。関係者は今後の状況を注視する構えだ。

「今は世間の関心が高いが、通常時にどうなるか」懸念も

 「福島県産だから手に取った。柔らかくておいしそう」

 8月30日、福島市のスーパーいちい蓬莱店を訪れた市内のパート従業員女性(60)は県産の蒸しダコを買い物かごに入れた。「浜の人の苦労を知っている。外国産も並んでいたが、少しでも応援したくて」と言う。

 女性が足を止めたのは、経済産業省が風評払拭を目的に同25日に始めた「ごひいき!三陸常磐キャンペーン」のコーナー。ロゴが記されたのぼりが立ち、県産のシラスやアオノリの他、サンマのすり身をハンバーグのようにして焼いた郷土料理「ポーポー焼き」といった商品が並ぶ。

 いちい営業本部長の伊藤光さん(38)は「買い控えを心配したが、想像以上に売れ行きがいい」と手応えを口にする。

 県産水産物を取りそろえる相馬市の「浜の駅松川浦」は処理水放出後の週末も県内外からの観光客でにぎわった。山田豊店長は「9月に底引き網漁が始まれば魚種や量も増え、より多くのお客さんに来てもらえる」と期待する。

 福島、郡山、いわき3市の各水産物卸売会社に取材すると、いずれも現時点では価格下落や取引中止といった事態は生じていないという。いわき市の卸売会社の担当者は「影響は半年以上経過しないと見えてこない。今は世間の関心が高いが、通常時にどうなるかは正直読めていない」と懸念する。

 県商工会連合会や県観光物産交流協会によると、県内旅行のキャンセルなどの報告はなく、客数や売り上げにも大きな変化はない。

 県観光物産交流協会の守岡文浩理事長は「政府には観光客数などのデータを基に影響が出れば対策を講じてほしい」と求める。大半の国は冷静に受け止めているとの見方を示し「福島に来て楽しみ、安全安心を実感してもらいたい」と呼びかける。

福島県漁連会長「問題なく進み少し安心」

 東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出開始から1週間がたった31日、福島県漁連の野崎哲会長は「大きな問題なく進み、少し安心している。われわれが不安に思ったよりは(消費者に)冷静に判断してもらっている」との認識を示した。いわき市であった組合長会議後、記者団に語った。

 野崎会長は、放出開始後に福島県産の水産物を購入して応援する動きが出ていることに触れ「皆さんの協力で頑張っていける」と感謝した。

 政府と東電による処理水放出については「長期に緊張感を持って実施してほしい」として注視する考えを示した。

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