出光と昭和シェルが統合で何が変わる!? 石油業界の再編でガソスタが先祖返りする?

クルマを使う人にとって身近なガソリンスタンドですが、石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油の統合により、新たなガソリンスタンドブランドが展開されると発表がありました。両社の統合によって、ガソリンスタンドはどのような変貌を遂げるのでしょうか。

■ガソリンスタンドはより幅広いサービスを展開する拠点に

 かつて日本の石油業界には、さまざまな企業が存在しました。しかし、業界では時代とともに統合が進み、2019年4月には業界2位の出光興産と業界4位の昭和シェル石油が経営統合し、石油業界では国内2番目の規模となる企業が誕生しました。こうした石油業界の統合にはどのような背景があるのでしょうか。

 石油業界統合の大きな要因はクルマの燃費技術が向上したことによる燃料需要の低下です。近年、自動車メーカーはクルマを開発するにあたり厳しい燃費基準をクリアする必要があります。

 また、燃費に優れるハイブリッドカーや電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の普及により、かつてのように大量にガソリンを消費するクルマは少なくなりました。

 そのため、石油業界においては他社との競合を続けるよりも統合によって生き残る選択したのです。そうした事情を反映してか、一般消費者と接するガソリンスタンドもガソリンなどの燃料を販売するだけの店舗から大きく変貌を遂げようとしています。

 出光興産と昭和シェル石油の経営統合によって、両社が展開していたガソリンスタンドを2021年3月から「アポロステーション」という新ステーションに刷新していくことが発表されています。

 アポロステーションはガソリンや軽油などの従来の燃料販売サービスに加えて、「EVステーション」「水素ステーション」といった新しい燃料インフラを備える予定です。

 さらに、地域の生活のハブステーションとなるべく「EC商品受け渡しサービス」や、「ライフケアデイサービス送迎」「ライフケアフィットネスサービス」、「家庭用ロボットメンテナンス」、そして「MaaS超小型EVステーション」という複数のサービス展開を目指すとしています。

 EVやFCVなどのクルマにおいては、急速充電ステーションや水素ステーションなどの新たなインフラが必要となるため、ガソリンスタンドの刷新はこうした次世代のクルマに対応するため必要な改修です。

 また、コロナ禍によって激増したEC商品配達においても、アポロステーションは中核施設となる可能性があります。都市圏・都市郊外を問わず高齢者の増加傾向は明らかであり、セーフティネットの役割を果たすライフケアサービスは地域の支えとなります。

 業界最大級の規模を持つENEOSホールディングスでは、こうした動きに先んじて家庭用電気販売など、石油エネルギーに依存しない事業展開を始めました。

 同じく業界で出光興産に次ぐ規模のコスモは、毎月定額料金を支払うことで車検などの費用がかからない独自の新車販売サービス「コスモMyカーリース」を展開しています。

■将来ガソリンスタンドは「先祖返り」する?

 先述の通り、ガソリンスタンド本来の役割といえる従来の燃料販売は落ち込みを続けています。石油精製・元売り各社によって構成される業界団体「石油連盟」による調査では、ガソリンなど揮発油の販売実績はほぼすべての自治体で前年度を下回る結果となり、燃料需要は減少傾向を示しています。

 このような状況が続けば、需要と供給のバランスが崩れてしまう可能性もあります。

 過去には石炭も需要増から減少に転じた歴史があります。明治維新によって近代化した日本ではエネルギー源として石炭が重宝され、石油エネルギーが主流となり始めた第二次世界大戦後もその傾向は続きました。

 しかし、戦後に海外から石油を大量に輸入できるようになり、モータリゼーションが進んだことで状況は一変。石油から精製されるガソリンや軽油、灯油の普及や、安価な海外製石炭が輸入され始めたことで、使用されなくなった国産の石炭は高価格化しました。

 現在、EVやFCVがすでに市販されていますが、ガソリン車をはじめとする内燃機関車に比べればその数はまだごくわずかであるため、原油価格に大きな影響を与えてはいません。

 しかし、電動化はもはや国際的な潮流です。たとえいま現在の原油価格に大きな影響を与えていなくても、将来的に需要が減ることは間違いないでしょう。

これからのガソリンスタンドは別称の「サービスステーション」の言葉どおりさまざまなサービスを展開していくこれからのガソリンスタンドは別称の「サービスステーション」の言葉どおりさまざまなサービスを展開していく

 そのため、石油元売り各社はもちろん、個々のガソリンスタンドも工夫をして生き延びようとしているのです。

 東京都内のあるガソリンスタンドスタッフは以下のように話します。

「コロナウイルスの影響で一時的に原油価格が下がりましたが、それでもかつてのようにレギュラーガソリンが90円になるということはありませんでした。これまでもそうですが、ガソリン価格が安くなったからといって、利用者が増えたかといえばそういうわけでもありません。

 現在、多くのガソリンスタンドがセルフ化をするなどして人件費を減らしていますが、それも限界があります。つまり、ガソリンだけを売っていては遅かれ早かれ倒れてしまいます。

 そこで、各ガソリンスタンドは、カフェやコンビニ、コインランドリーを併設したりするなどいろいろな取り組みをしています。

 ガソリンスタンドの将来は、これまでのようにガソリンだけを売るのではなく、クルマはもちろん、生活にかかわるいろいろなサービスを提供して地域の悩みを何でも解決できる『よろず屋』のようになっていくのかもしれません」

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 実は、ガソリンスタンドを経営している企業のなかには、戦前は薪や炭などのほかにさまざまな商品を扱う「商店」を名乗っていた会社が少なくありません。

 いまでも、「商店」が屋号につくガソリンスタンド運営会社があるのはその名残りといえます。現在は、クルマがもっとも燃料を消費する道具であるため、自動車用のガソリンや軽油をおもに販売していますが、戦後間もない頃はかまどや風呂がもっとも燃料を消費する道具でした。

 そのため、ガソリンスタンド以前は薪や炭などの燃料を販売していたとされます。また、当時は燃料を買い求めにきた客のために、タバコや塩を販売したり、地域の悩み相談をおこなったりといった、まさしく「よろず屋」のような役割を果たしていたといわれています。

 クルマの進化に伴ってエネルギー業界では変革が起こっています。石油元売り各社は統合を進め、出光興産では地域に根づいた多種多様なサービス提供拠点として「アポロステーション」の整備を計画しています。

 しかし、歴史を振り返るとそうした「よろず屋」こそガソリンスタンドのルーツともいえ、ガソリンスタンドは現在でも洗車や車検、板金塗装など、クルマに関するさまざまな悩みを解決するサービスを展開していますが、石油業界の統合によって、こうした「先祖返り」の流れが加速するかもしれません。

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