出来秋実らぬ汗 概算金下落 猛暑で品質・収量低下

東北で2010年産米の稲刈りが最盛期を迎える中、稲作農家の表情がさえない。販売委託をした農家に全農が前金として支払うコメの概算金は、各県で軒並み大幅に下落した。記録的な猛暑でコメの品質低下も危ぶまれる。実りの秋。農村は憂いを帯びている。
 日本三景松島(宮城県松島町)の海岸から内陸に7キロ。街道沿いに広がる中山間地の水田で9月下旬、コンバインがうなりを上げた。
 「農家はピンチ。1万円は切らないと思っていたが、異常だね」
 松島町の専業農家戸石隆明(たかはる)さん(61)が表情を曇らせる。
 全農宮城県本部は9月10日、主力のひとめぼれの概算金を昨年より3600円低い60キロ当たり8700円(1等米)に引き下げた。1万円の大台を割ったショックは大きい。
 戸石さんはひとめぼれなど4種類のコメを4.7ヘクタール作付けしている。約460万円だった稲作収入は今年、100万円ほど減る計算だ。
 深刻なコメ余りで米価は下落を続ける。戸石さんは「政府は余剰米を備蓄するべきだ。一度米価を安定させないと、農家は経営レベルを維持できなくなる」と訴えた。
 記録的な猛暑も、出来秋に暗い影を落とす。
 大崎市古川北宮沢地区のコメ専業農家3代目、佐々木好昭さん(42)が気掛かりなのは高温障害の影響だ。
 「検査を終えた農家の結果は、どこも芳しくない。平年は1等米が8、9割だが、今年は6割ぐらいまで落ち込むかもしれない」
 古川農協によると、1等米と2等米では、60キロ当たり600円の価格差がある。佐々木さんは「概算金が1万円を切った上、2等米に格付けされたら二重のショックだ」と苦い表情で語った。
 天童市の農業法人「天童スリーファーム」の吉田英徳さん(39)は「暑さの影響か、コメは小粒。収穫量は1割弱減るのではないか」と予想。収量は10アール当たり540~630キロと少なめに見込んでいる。
 同法人代表の山川多四郎さん(65)は「来年以降のコメの市場価格も読めない。戸別所得補償制度の交付金が入らないと手取り収入の全体も見えない」とため息をついた。概算金の下落、品質低下、収量減…。農家を見舞う危機に「農業をやめたいぐらいだが、稲作でしか生活できない」と嘆いた。
 秋田県三種町の専業農家畠山勝巳さん(55)は戸別所得補償制度について「ある程度の安心感がある」と評価する。が、国の財源不足もあり、制度の先行きは不透明だ。畠山さんは「多くの農家が不安を抱いている。今後、国は予算を削らないようにしてほしい」と訴え、制度の安定した運用を政府に求める。

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