出生率0.7の韓国より日本の少子化が“深刻”な理由 世界トップの「無子率」と「理想とのギャップ」

 東京都知事選でも論戦が交わされていたのが、我が国を取り巻く重大事項「少子化問題」である。お隣、韓国の出生率「0.72」という数字が世界を驚かせたばかりだが、実は「生涯子どもを持たない女性の割合」でいうと、日本はダントツの世界トップなのだという。統計データが浮かび上がらせる、我が国の実情とは――。 【画像】北海道は6.0で青森は6.5!?驚きの「100年前の出生率」  ***

 先月発表された日本の合計特殊出生率は、「1.20」と過去最低を更新した。危機感を募らせる数字ではあるものの、直前に韓国の「0.72」という衝撃的な低下ぶりを目の当たりにしていただけに、「韓国よりはまだマシか…」との感情を抱いた向きも少なくないのではなかろうか。 「少子化の度合いを図る重要な指標は『出生率』だけではありません。『無子率』で比較すると、日本は世界でダントツの1位という事実があります」  そう切り出すのは、統計データ分析家で、アルファ社会科学主席研究員の本川裕氏だ。“統計探偵”として日々あらゆるデータに触れてきた中で、「50歳時点で子どもがいない女性の割合」と定義される「生涯無子率」に注目する。 「少子化とは、産む子供の数が3人から2人に、2人から1人にと減っていく問題だけでなく、そもそも子どもをもたないという人の割合も、軽視してはいけない数値です。しかしながら、後者の『無子率』を示すデータが少ないがゆえに、『合計特殊出生率』ばかりが注目される現状があるのです」

「3、4人のうち1人の割合で子どもをもたない」

本川氏作成 ※出典:「社会実情データ図録」

 2024年に49歳を迎えた女性の未出産比率、つまり「生涯無子率」をOECD加盟国で比較したデータによると、日本は28.3%と、次点のスペインを大きく突き放しトップに位置している。韓国に至っては12.9%と、日本の半分以下の値だ。 「『子どもをもたない生き方も増えている』ということ自体は知られてはいても、『3、4人のうち1人の割合で子どもをもたない』というデータには、驚かれる方も多いのではないでしょうか。出生率、つまり女性1人が産む子供の数自体は韓国の方が少ないにしても、子どもをもつ女性の割合で比較すると、日本の方がはるかに少ない事実もあるのです」 “生き方”が多様化し、結婚をしても子どもを産まない、あるいは結婚をしないという選択肢が増えていること自体はポジティブな側面もあるだろう。しかし少子化という点において問題なのは、経済的な不安などから「産みたくても産めない」「結婚したいけどしない」という層が多いことだ。

「理想」とのギャップ

本川氏作成 ※出典:「社会実情データ図録」

「この傾向も、意識調査から明らかになっています。例えば『理想の子どもの数』について、2020年に内閣府が実施した国際比較調査の結果があります。これによれば、世界的に減少傾向にある中で、日本は『2人』『3人』と回答した割合が比較的高く、平均すると理想の子どもの数は『2.1人』。フランスやスウェーデン、ドイツと比べても高い水準であることがわかります」

 日本人の「子どもは2人以上ほしい」という傾向がはっきりと見られる。 「その一方で、日本の出生率は世界と比べて低いという現実がある。理想の子どもの数と現実の出生率を比べてみると、そのギャップは日本が飛びぬけています。『2人目もほしいけど諦めようか……』という層が、日本では多いことがおわかりいただけるかと思います」 「世界一の無子率」に加え、「理想とする数の子どもを産めない」という大きなギャップがあるのだから、これでは少子化も進んで然るべきというわけか。 「もっとも、世界に比べて日本が効果的な対策を講じてこなかったことも、データからよくわかります。例えば、フランスをはじめ出生率の低いヨーロッパ各国でも、一時的には出生率の増加が見られるなど、効果のある少子化対策を行った“形跡”がある。それに対して、ここまで右肩下がりになっている日本の場合、無策だと指摘されても仕方ないでしょう」

“東高西低”から“西高東低”に

 だからこそ、対策の合理性を見極める必要があると、本川氏は指摘する。 「多様な少子化対策を打つこと自体は良いことだと思いますが、日本には良くも悪くも、これだけはっきりしたデータがそろっているわけですから、その分析にもっと力を割いて、合理的なお金のかけ方を考えていく必要があるのではないでしょうか。例えば、戦前の出生率は東北など『東』に行くほど高く、沖縄など『西』に行くほど低いという“東高西低”の傾向がありました。ところが戦後になると、“西高東低”と逆転している。こうしたデータについて人口学者等に調査を依頼すれば、何かヒントになることもあるかもしれない。何となく効果がありそうな政策ではなく、せっかくあるデータを合理的に活用していくことこそ、求められている対策ではないかと思うのです」  とはいえ、と続ける。 「ここまで高齢化が進むと、政治家も有権者として相手にすべきは高齢者ということになり、なかなか少子化対策に力を入れられない事情もあるのでしょう。この構造が変わらない以上、人口が減少していく事実を受け入れ、その中で豊かに暮らしていける道を探るべきフェーズに入っているのかもしれません」

デイリー新潮編集部

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