分離プラン時代にiPhoneは売れなくなるのか

5月17日に公布された「電気通信事業法の一部を改正する法律(改正法)」が、2019年10月1日から施行されることが正式に決まった。通信キャリアは分離プランを始め、総務省が定めた新しいルールを守らなければならなくなる。

ドコモのiPhone 8(64GB)が姿を消した販売ランキング

 端末メーカーにとって大きなインパクトを与えるのが、「端末割引が2万円まで」の制限。継続利用を条件とする割引は不可になり、継続利用を条件としない場合でも2万円までしか割引を適用できなくなる。

 分離プランによって通信料が従来よりも低廉になれば、通信料+端末代を合わせたトータルの料金は従来よりも安くなるかもしれないが、高額な端末ほど買いにくくなる面もある。10万円を超えるようなハイエンドモデルほど売りにくくなり、3万円前後のミッドレンジモデルが今後も増えることが予想される。「2万円までの割引」は旧iPhoneにも影響

 この端末割引の制限で、特に大きな打撃を受けそうなのが、Appleだ。例えば2018年に発売された「iPhone XS」と「iPhone XS Max」の場合、3キャリアが扱うモデルは発売時には約13万円~19万円(税込み、以下同)と、Androidのハイエンドスマホと比べても、かなりの高額だった。ややスペックの落ちる「iPhone XR」も、キャリアが扱うモデルは約10万円~12万円と、なかなかのお値段。

 それでも、3キャリアの端末購入補助を適用することで、iPhone XSは約5万円~11万円にまで、iPhone XS Maxは約7万円~12万円にまで、iPhone XRは約2万円~6万円にまで割り引かれていた。これが「割引は一律2万円まで」となると、当然ながら、最新のフラグシップiPhoneは売りにくくなる。

 KDDIとソフトバンクが提供している、本体を返却する代わりに割賦の残債半額を免除するプログラム(auのアップグレードプログラムEX、ソフトバンクの半額サポート)も、2019年9月末で新規受付を終了する予定。2社は新たな施策を提供する予定だが、これまでのような“半額免除”施策は、新iPhoneでは受けられなくなる(新iPhoneをこれら施策の対象とし、9月末までは受けられるのかは未定)。

 この端末購入補助の制限は、旧iPhoneにも影響を及ぼす。ITmedia Mobileでも毎週掲載しているGfKのランキングを見ると、約2年近くにわたって「iPhone 8」がトップの座に君臨している。iPhoneの売れ筋は、XSでもなくXRでもなく「8」なのだ。また、8以前のモデルである「iPhone 7」も3キャリアがいまだ扱っており、ドコモは「iPhone 6s」、auは「iPhone SE」も扱っている。

 これらの旧モデルも、ホームボタンが使えるiPhone、またiPhone入門機として人気を集めているが、端末購入補助の制限によって、売れ行きが鈍る恐れがある。特に、最近ラインアップが増えている、3~4万円台のAndroidスマートフォンが、大きなライバルになりそうだ。

 特に売れているiPhone 8(64GBモデル)の価格は、ドコモが7万9704円、auが9万1440円、ソフトバンクが8万6400円。2年前のモデルとはいえ、本体価格は発売時から意外と値下げされておらず、ハイエンド機に匹敵するほどだ。

 ドコモが提供している、本体を返却する代わりに3分の1の残債を免除する「スマホおかえしプログラム」を適用すると、iPhone 8(64GBモデル)の実質負担額は5万3136円となる。この場合、免除する額から買い取り価格を引いた額が2万円以内になればよい。ドコモのiPhone 8(64GB)もスマホおかえしプログラムの対象であり、免除額は2万6568円。2万円を引くと6568円だが、ドスパラやイオシスのドコモiPhone 8(64GB)の買い取り価格を見ると、7000円~約3万円なので、問題ない。

 KDDIとソフトバンクも、10月1日以降はドコモと同様の施策に切り替える可能性が高い。つまり、免除する額を半額から3分の1にする、というものだ。

分離プラン開始後、ドコモのiPhone 8が不調に

 一方で気になるデータがある。ドコモが2019年5月31日に月々サポートを終了し、スマホおかえしプログラムを開始した6月1日以降、ドコモiPhone 8(64GB)の順位が下降しているのだ。5月27日~6月2日のランキングでは総合1位だったが、翌6月3日~6月9日には一気に圏外に追いやられている。

 他の夏モデルに押されて一時的にダウンしたのかと思いきや、この週以降、ドコモのiPhone 8(64GB)は一度も総合トップ10入りできていない。対照的に、auとソフトバンクのiPhone 8(64GB)は総合1位か2位を継続しており、半額免除の施策が効いているからではと思われる。つまり3分の1の免除では不十分、というわけだ。

 となると、アップグレードプログラムEXと半額サポートが提供されない10月1日以降、auとソフトバンクのiPhone 8(64GB)も順位を落とす可能性がある。旧モデルは10月前の値下げで延命?

 では10月1日以降、本当にiPhoneは売れなくなるのだろうか。

 まずは9月に発売されるであろう新モデルだが、さすがに2018年のように、最上位モデルでも20万円近い値付けにはならないと考える。ドコモは、2019年夏モデルの価格について「調達価格に対して適正な粗利は乗せているが、分離プランになるので、粗利の部分は努力した」(販売部長の高本寛氏)結果、ハイエンドモデルでも10万円前後に価格を抑えている。こうした努力は当然、iPhoneにも向けられるはずで、2018年のiPhoneよりは価格は抑えられそうだ。

 “主力商品”のiPhone 8については、値下げをすることで、実質的な負担額を2018年~2019年と同様にする可能性もある。Appleが新型iPhoneを発表するタイミングで、旧モデルを値下げするのは恒例だが、10月1日以前であれば、ルール上は割引額に制限はない。

 ちなみに10月1日以降、旧モデルに対しても、2万円以内なら値下げが可能。価格を改定する際、どのタイミングになるのかで値下げ幅は変わってくる。

 比較的新しいiPhoneで期待したいのが、iPhone XRの値下げだ。GfKランキングではiPhone 8に次いでiPhone XRが売れているだけに、XRの値下げ幅次第では、いよいよ8を抜き去ることも考えられる。iPhone XRは、ホームボタンを搭載しないiPhoneの中では比較的安いモデルであり、カラーバリエーションも多いことから、次世代の普及期といっても差し支えない。

量販店でSIMフリーiPhoneが売られる可能性も

 もう1つ注視したいのが、Appleの動きだ。ここ最近、ビックカメラやヨドバシカメラなどの量販店で、iPadのセルラーモデルの取り扱いがスタートしている。「これはSIMフリーiPhoneが量販店でも売られる前触れなのか?」とみる向きも多く、業界の流れを考えれば、大いにあり得る。現在、iPhoneのSIMロックフリーモデル(新品)は、基本的にAppleのオンラインストアかApple Storeでしか購入できない。

 もし量販店などに販路が拡大すれば、より多くのユーザーが購入しやすくなる。Appleの直販価格の方がキャリアよりも安い、なんてことになれば、Appleが扱うiPhoneを購入し、SIMだけを差し替えて“機種変更”することもできる。もちろん、MVNO(格安SIM)ユーザーにとっても、iPhoneの販路が広がることは歓迎すべきことだ。

 量販店は自社のポイントが付く上に、最近はコード決済を中心に高還元率のキャンペーンも実施している。PayPayの100億円キャンペーンでiPadが売れた例が顕著だが、こうした施策との相乗効果でiPhoneが売れる可能性高い。「キャリアで買うiPhoneが高いのなら、SIMフリーでもいい」と考えるのは当然のことで、2019年はキャリア以外が扱うiPhoneが増えるかもしれない。

 Appleは、改正電気通信事業法の省令に関するパブリックコメントで、総務省の新たな施策を「競争の抑制につながる」「差別的な対応だ」として総務省を批判しており、危機感を募らせていることがうかがえる。

 10月以降、iPhoneの売れ行きのカギを握るのは「価格」と「販路」にあると考える。キャリアとAppleの施策を注視したい。

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