熊本市の山中に、ラブホテル代わりに使える「専用駐車場」が誕生した――。そんな情報がSNS上を駆け巡ったのは8月初旬のことだった。その名も「ラブパーキング」。現地を訪れた人が駐車場内の貼り紙を投稿し、そこには《朝10時~夜8時 500円/2時間毎》《夜8時~朝10時 1000円/時間内》、《山だから思いきり声が出せます》といった謳い文句が記されていた。駐車スペースはブルーシートで四方が囲われ、車内での“営み”を他人に見られる心配も無いという。
【写真13枚】高さ約1.3mのブルーシートで三方を囲まれたラブパーキングの区画。他、「盗撮は~(窃視の罪)~6か月以下の懲役~」との注意書き、利用時間のお知らせや「らくがき帳」も
誰が何の目的でラブパーキングを始めたのか。週刊ポスト記者は熊本市に飛んだ。8月下旬の昼下がり、熊本市西区の金峰山を登っていくと、無事にラブパーキングに到着した。敷地の周囲は鬱蒼とした木々に覆われ、虫たちの鳴き声がけたたましく鳴り響いている。
4台分ある駐車スペースに車は1台も入っていなかったが、敷地の隅に軽自動車が停められており、その近くで高齢の男性がなにやら作業をしている。声をかけると、彼こそが管理人・田中さん(60代・仮名)だった。ラブパーキング誕生の経緯について話を聞いた。
「この敷地は代々うちの私有地なんです。以前はただの空き地で、山道を走るドライバーがUターンをしたり、ちょっと休憩するようなスペースだったのですが、時々、ドライブに来た若いカップルがここに車を停めてイチャイチャしていることもあった。それだったら、ちゃんと料金を取る駐車場にして、その代わり、カップルやドライバーが安心して休んだり、楽しめるようなスペースにしようと思ったんです。
たとえば公園の駐車場など、公共のスペースに車を停めて、車内でカップルがエッチなことをしていたら、パトロール中の警察官や管理者などに咎められることもありますよね。場合によっては公然わいせつ罪になるかもしれない。でも、ラブパーキングはうちの“私有地”ですから、誰からも文句は言われません。
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駐車スペースはブルーシートで囲ってあるから他人の目にも触れず、公然わいせつ罪にも当たらない。実際、ラブパーキングをオープンして以来、警察などから注意されたことは一度もありません」
利用料金は、朝10時~夜8時までの時間帯は「2時間500円」だが、夜8時~朝10時までは「フリータイムで1000円」。つまり、1000円で車中泊をすることができるので、ラブホテルに比べたら断然安上がりだ。敷地内にトイレは無いのだが、規定の時間内であれば駐車場の出入りは自由なので、車で数分の場所にある公衆トイレを利用できるし、ふもとのコンビニへ食料などの買い出しに行くこともできる。
田中さんは管理人として、基本的に毎日ラブパーキングに顔を出し、料金の回収や敷地内の掃除、駐車スペースの増設作業などをしている。しかし常駐ではなく、夜間は管理人不在となる日も多い。ひとけのない山中で、セキュリティー上の心配はないのだろうか。
「駐車場を利用しないのに勝手に敷地内に入って来たら『不法侵入』だし、お客さんが入っている駐車スペースを覗いたり盗撮したりしたら『窃視の罪』で、どちらも懲役または罰金刑になります。私がここにいる時にそういう違法者を見つけたら警察に通報するし、私がいない時間帯でも、お客さんが警察に通報してほしい。そのことはちゃんと貼り紙に書いて、警鐘を鳴らしています。今のところ、そういったトラブルは起きていませんよ」
取材の途中、なんと若いカップルが乗った車が駐車場に入ってきた。車は右端の駐車スペースに停まり、運転席から出てきた男性が入り口部分に取り付けてある開閉式カーテンを閉めた。その様子をじっと見届けてから、田中さんが話を再開する。
「あのブルーシートの囲いも全部私の手作りです。今年の春頃からそういった準備を色々と始めて、8月1日にラブパーキングをオープンしました。駐車スペースは現在増設中で、あと6台分増やして、全部で10台入れるようにしたいと思っています。
ラブホテル代わりに使える駐車場というのは、日本ではここが初めてじゃないかな。事前に調べたところ、イタリアにはそういう駐車場があって、『囲いがあること』や『管理人がいること』などが条件として定められている。なので私もイタリアのシステムを参考にしました。
こちらで宣伝したわけではないのですが、ありがたいことに若い人たちがインターネットで盛り上げてくれて、県外からもお客さんが来てくれています。料金箱の近くに『らくがき帳』を置いているのですが、それを見る限り、実際に利用してくれた方々には楽しんでいただけているようです。
ただ、1回の利用料金が500円とか1000円ですから、売り上げは微々たるものですよ。まぁ、私はもう70歳近い年金生活者ですから、儲けようという気持ちはあまりなくて、ただ利用してくれる方々に喜んでもらえればいいと思っているんです」
ラブパーキングが満車になる日は来るか。
※週刊ポスト2022年9月9日号