準大手ゼネコンの前田建設工業(東京)が仙台市中心部で施工したマンションに耐震上の欠陥が多数見つかった問題は、管理組合が施工業者と交渉する難しさを浮き彫りにした。専門知識の差があり、交渉は2年近く停滞。転換点は組合側が自費で独自調査に乗り出したことだった。
スリットに異常「やっぱり…」
ネットを頼りに見つけた東京の1級建築士は2023年12月の住民説明会で頼もしげに言い切った。
「人間ドックと同じ。調べて問題がなければ、安心して暮らせる。簡易調査の費用は30万円。問題があっても修繕できるし、直せば資産価値は下がらない」
出席者の全会一致で顧問建築士に就任したAMT1級建築士事務所(東京)の都甲栄充代表の調査が24年1月に始まった。調査は柱と壁の間に千枚通しのような長い金属を差し込むシンプルなものだった。
地震の揺れから柱を守る構造(耐震)スリットと呼ばれる緩衝材が、柱に並行して敷設されているかがポイントだった。発泡ポリエチレン製の緩衝材が正規の位置にあれば金属が刺さり、なければコンクリートにぶつかって白煙が上がる。
一本目の柱。異常はすぐ見つかった。スリットは並行に入ってなかった。「やっぱり…。ありがとうございます」。立ち会った住民から感謝の声が上がった。https://www.youtube.com/embed/7buG5l1SvpA
住民が疑問を持ったのは22年3月の福島沖地震がきっかけ。外壁の一部がはがれ落ち、スリットが入っていないことが露呈した。
最初の交渉先は管理会社だった。次に販売会社、前田にたどり着くまでに3カ月がたった。前田との交渉が始まった22年6月、完成時に組合に渡されていた竣工(しゅんこう)図と実際の工事内容が違っていたことが判明した。9月には前田から建物全体の調査を確約する書面を取り付け、翌年春に調査が始まる予定だった。
ところが前田は23年5月に態度を一変。工事内容の変更を「軽微」と説明し「耐震性に問題はない」として調査を棚上げにした。組合は「問題はない」根拠を求めたが、明確に示されずに時間だけが過ぎた。
マンションのトラブル解決は時間との闘いでもある。売り主の過失にかかわらず買い主に保証責任する「瑕疵(かし)担保責任」の期間は引き渡しから10年。一方で建物の欠陥に気付く機会となる大規模修繕は一般的に引き渡しから12~16年後だ。
20年の民法改正前に引き渡された建物は20年間で賠償請求権がなくなる。他にも不法行為を知ってから3年で消滅時効を迎える。交渉しているうちに「時間切れ」になる恐れもある。
このマンションは引き渡しから20年の期限が迫っていた。住民の一人は「なかなか返答の来ない書面のやりとりや方針変更で時間だけを引き伸ばされている感じだった」といぶかしむ。
結局、建物の一部での24年1~3月の独自調査で、構造スリットに14カ所の異常が見つかり、うち10カ所で前田も異常を認め、修繕を約束した。ただ建物全体の調査に関しては、両者の合意に至っていない。
欠陥マンション問題に詳しい日弁連消費者問題対策特別委員会幹事の斎藤拓生弁護士(仙台弁護士会)は「怪しい物件は異常が目に見えなくても建築士が調べれば分かることが多い。交渉は時効の問題もある。建築士と弁護士の連携で問題に当たることが望ましい」と話す。