創業110年の名店 江戸前寿司の精神からデカネタは認めない

今月から来月中旬にかけて、いよいよ旨さの最盛期を迎えるクロマグロ。極上のマグロが、津軽海峡へどんどん流れてくる。青森・大間に北海道は函館の戸井。青森では三厩も漁場を同じくする名産地だ。
 マグロはサンマやイワシなどの青魚を食べるとトロの脂が乗り、イカを食べると赤身の旨味が増すという。先月頃からマグロは、スルメイカを食べている。
「スルメイカの腸は塩辛などに漬けるもので、とてもカロリーが高い。それを1日何十キロと食べて脂が全身に広がり、甘みや旨味が増している。赤身も中トロに近いような味わいを感じさせます。シーズンに入ったら、体重は180キロ以上のマグロがいい。180~250、260キロくらいがいちばん旨いんじゃないかな。大きすぎても身が潰れてしまう」(東京・四谷荒木町に店を構える『日本橋 寿司金』の秋山弘氏)
 最近では、鮨ダネに対して極端に米が少ない“デカネタ”が人気を博しているが、秋山氏は江戸前鮨の精神から、それは断固として認められないと語る。
「鮨ダネが大きく垂れ下がった握りのことを、昔は『女郎すし』と揶揄していた。品がないと思われていたんですね。江戸前の鮨ならば、鮨ダネはきっちり切らないといけない。時代は変わっても店の誇りにかけて江戸前の仕事を守り続けていきたい」(秋山氏)
 創業から110年を数えた。戦前から同じ店でマグロを仕入れ、仕事も変えない――。1貫のマグロに職人の心意気を見た。
取材■渡部美也

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