「次の経営哲学を持つ会社がある。その名は?」という問いがある。正解はなんだろうか。
(1)判断・決断のよりどころとなる企業理念がある
(2)顧客第一主義を貫いている
(3)イノベーションを追求している
(4)自社の身の丈を知り、分を超えたことはしない
(5)謙虚さを忘れずに質素にする
(6)人を尊重し、コミュニケーションを大切にする
(7)部下を人として大切に扱う
(8)協調精神を重視する
(9)すべてに対し、私心なく正直に対応する
(10)利益至上主義を慎み、適正価格を維持する
(11)ブランドや信用を大切にする
(12)創業精神を大切にする
その答えは、世界最古の企業である金剛組だ。誕生はなんと578年で、実に1400年以上の長い歳月を生き抜いてきた会社である。
創業者の金剛重光は、聖徳太子の命を受けて百済から招かれた3人の工匠の1人であり、四天王寺や法隆寺の建設に携わったという。宮大工集団として社寺の普 請に関わっていた金剛組は、2005年に高松建設(現・高松コンストラクショングループ)の傘下に入ったが、金剛組のブランドは連綿と続いている。
前述の12項目は、金剛組の「職家心得之事」という16カ条から成る社訓から、12カ条を私なりに現代語でわかりやすくしたものである(ほかの4カ条は内容的に重なるため割愛した)。
●現代でも通用する金剛組の経営哲学
この12カ条を読み直してみると、そこにひとつの発見が生まれる。「すべての項目が、そっくりそのまま今でも通用する」ということである。
俳聖・松尾芭蕉の言葉に「不易流行」というものがある。「流行」とは、ファッションという意味であり、一時的なはやりである。経営の世界にも、さまざまな 流行語があり、挙げればキリがない。一方、「不易」というのはコンスタントという意味であり、時代が変わっても変わらないものである。
経 営学者のピーター・ドラッカーは、1954年に出版した『現代の経営』(原題・The Practice of Management)の中で、「経営とは顧客創造である。顧客創造とはマーケティングとイノベーションである」と喝破している。この言葉は、今日の経営 にも見事に通用するものだ。
経営には、いつの時代にも当てはまる、時代を超越した不易があるということだ。経営者は、流行にやみくもに飛びついたり、溺れてはならない。適宜取り入れるのはいいが、流行を追うあまり、不易という経営の原理原則を忘れてはならない。
「Win- Win」や「CSR(企業の社会的責任)」など、海外発の耳触りのいい言葉があるが、これらは金剛組が1400年以上前から唱えている経営哲学と合致して いる。CSRとは、近江商人の座右の銘である「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」と同じことである。CSRの本家本元は、アメリカではな く日本なのだ。
長生きするための原理原則である不易をおろそかにしながら、海外(主にアメリカ)から輸入した経営の手法や技法に飛びついても、会社はよくならない。短期的な成果には結びつくかもしれないが、持続的成長はかなわないだろう。
経営者は、金剛組の経営哲学をもう一度吟味して、不易に立ち戻ることが肝要だ。そして、不易と流行を上手に混合することが大切である。勝ち残る会社というのは、正しい混合ができる金剛組タイプなのだ。
(文=新将命/国際ビジネスブレイン代表取締役社長)