劣後ローン、中小企業のピンチ救う命綱に…コロナ長期化で利用拡大

コロナ禍で財務状況が悪化した中小企業などを支援するため、政府系金融機関が設けた「資本性劣後ローン」の融資制度を利用する動きが広がっている。政府系金融機関が資金繰りを助けることで、民間金融機関が中小企業への融資をしやすくなる「呼び水効果」を狙っており、打撃を受けた中小企業の命綱となっている。 【写真】1円玉を500枚持ち込んでも預金額は「0円」…手数料の仕組み

◇売り上げ減

(写真:読売新聞)

 東京・赤坂や銀座などに店舗を構える中国料理レストラン「赤坂璃宮(りきゅう)」。緊急事態宣言の解除を受け、客足は戻りつつあるが、先行きの不安は拭えないままだ。蓄積されたコロナ禍のダメージは大きい。

 店舗を運営する「タン企画」(東京都)の岩渕彦彬(ひこあき)会長(78)は「緊急事態宣言中には、売り上げがコロナ禍前の1割程度まで落ちた月もあった」と振り返る。

 昨年、コロナ禍に直面したタン企画はまず、従業員約40人の雇用も守るため、地元の城南信用金庫から融資を受けた。ただ、借金の増加で財務状況は悪化し、信用力が重視される「フカヒレ」など高級食材の仕入れに支障が生じる恐れが生じた。

 ピンチを救ったのが劣後ローンだ。日本政策金融公庫と劣後ローンの融資交渉を始め、今年1月に1億円を借り入れた。

◇呼び水効果

 借金が膨らんだ企業に対し、金融機関は貸し倒れリスクを警戒して追加融資には慎重になる。大企業であれば新株を発行して自己資本を増強することも可能だが、中小企業の場合は引受先を探すことが難しい。

 現実的な選択肢となるのが劣後ローンによる資金調達だ。劣後ローンは借金ながら自己資本と見なすことが可能で、大企業の増資に似た効果を持つ。タン企画の場合も、劣後ローンにより資本が増強され、城南信金がタン企画への追加の融資を実行した。

 日本公庫は劣後ローンの役割について「民間金融機関による融資の『呼び水』」(広報担当者)と説明する。タン企画のケースは日本公庫が想定する典型例だ。

 政府系金融機関による新型コロナ対応の中小企業向け劣後ローン制度は昨年8月に始まり、日本公庫のほか商工組合中央金庫も担当している。

 限度額は10億円、期間は最大20年で元本は融資の終了時に一括返済する仕組みだ。金利の支払いは最初の3年目までは年0・5%で、4年目以降は最終利益が黒字であれば引き上げ、赤字ならば据え置きとなる。日本公庫の融資決定実績は、8月末までに計3847先、計5759億円となった。

◇過剰債務

 コロナ禍の長期化により、借金が膨らむ一方で、手持ち資金が細る企業が増え続けている。今後も劣後ローンの利用は拡大しそうだ。

 財務省がまとめた21年4~6月の法人企業統計によると、資本金1000万円以上1億円未満の企業(金融・保険業を除く)の借入金総額は約184兆円。1年前より10・6%も増えていた。東京商工リサーチが8月上旬に行った調査では、「過剰債務」と回答した中小企業は35・7%と大企業の16・7%を20ポイント近く上回った。

 経済活動の正常化が今後進むとしても、これまでに蓄積された過剰債務が原因で資金調達ができなければ、中小企業の経営再建はおぼつかなくなる。東京商工リサーチの友田信男・情報本部長は「短期的な業績回復が見通せない中小企業にとって劣後ローンを利用する効果は大きい」と話している。

 ◆資本性劣後ローン=企業が倒産した場合に返済する順位が低い借り入れ。借入金は株式発行で調達した自己資本と同等と見なすことが可能で、企業の財務改善につながる。一方、金融機関にとっては通常より貸出金を回収できなくなる危険性が高い融資となるため、一般的に金利は高めに設定される。

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