コロナ禍で、日本人の勉強嫌いはさらに深刻化している —— 。
そんな傾向を示す調査結果を、リクルートワークス研究所が2021年7月5日に発表した。リクルートワークス研究所では、2016年から約5万人を対象にしたアンケート調査「全国就業実態パネル調査」を実施し、分析結果をまとめた。
調査は同一の人物を2016年から毎年追跡調査しており、同一個人を追跡するパネル調査としては「国内最大規模」という。
「学習」以外は改善
© 出典:Works Index 2020 就業の安定、ワークライフバランスなど5つのテーマで分析。悪化したのは「学習・訓練」だけだった。
調査の結果、2016年に比べて、日本の働き方は多くの面で改善されていることが分かった。特に「労働時間の短縮化」「非正規の待遇改善」「女性とシニアの就業安定化」の面では改善がみられている。
一方で、「学び」に関する数値は悪化していた。アンケートでは以下の点を調査。
・難易度の高い、多様なタスクを任されているか。
・仕事を通じて学ぶOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の機会があるか。
・企業らが提供する講習や勉強会などOff-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)の機会があるか。
・自己啓発に取り組んでいるか。
アンケートの回答を、最も良い状態を100としてポイントに換算したところ、2020年はすべての項目で、2019年を下回っていた。 © 出典:Works Index 2020 2019年と比べて、2020年は学びに関するすべての項目が悪化した。
特に、新型コロナの影響でテレワークが普及し、これまでのように職場で仕事を通して学ぶOJTの機会が減少した。OJTについては2019年に28.1ポイントだったが、2020年には26.2ポイントに悪化していた。
さらに深刻なのがOff-JT。2019年の14.1ポイントから、9.8ポイントに減った。
この結果について、リクルートワークス研究所研究員でアナリストの孫亜文氏は、
「会社に集まっての研修が中止になったことなどが影響している。大企業などではオンライン研修への移行が進んだケースもあったと思われるが、全体としてみると企業が提供する学びの場は減ってしまった」
自ら学ぶ人も減少
© 撮影:横山耕太郎 リクルートワークス研究所アナリストの孫亜文氏。
企業からの働きかけではなく、個人が自発的に学んだかを質問した「自己啓発」についても、2019年には27.0ポイントだったのが、2020年は26.1ポイントに急落した。
調査では、企業側がOJTとOff-JTの機会を提供できなかったことで、自己啓発の割合も減ったと分析している。
2018年にリクルートワークス研究所発表した分析によると、自己学習をしている人の割合は全体の33%。約7割が自ら学ぶということをしていない。
また「仕事に関連した学びを取らなかった理由」として最も多かったのは、仕事や家事・育児で忙しいことや、費用負担が重い、会社が評価してくれないなどではなく、「あてはまるものがみつからない」(51%)で傑出して多かった(2018年調査)。
「自己学習をするかどうかは、企業側がOJTとOff-JTの機会を提供しているかどうかに加え、仕事でレベルアップできるかどうかも影響することが分かっている。
今回の調査では、『仕事の難易度が下がった』と感じている人が増えており、逆に『単調ではなく、さまざまな仕事を担当した』と答えた人は減っていた。コロナ禍で、業務の幅が狭まったことも、自己学習の低下につながっているとみられる」(孫氏)
学ばない日本人
© 出典:経済産業省『「雇用関係によらない働き方」に関する 研究会・報告書』のデータを基に編集部作成
日本は人材育成にかける費用が、諸外国に比べて低いことは長く指摘されてきた。
経済産業省の資料によると、「25歳以上の大学型高等教育機関の入学率」(学び直し)は、OECDの平均は18.1%だが、日本はわずか1.9%。人材育成投資(OJT以外)がGDPに占める割合でみても、アメリカは1.41%なのに対して、日本は0.23%しかない。
そもそも、自主的に学ぶことが少なかったうえに、コロナが追い打ちをかけたのが現状だ。
「2018年、2019年はリカレント教育の重要性が広まり、調査でも『学び』に関する状況は改善していた。しかし、コロナで勤務時間は減っているのに、自律的な学びが定着していない現実が浮き彫りになった。
企業が提供するOJT、Off-JTが自己学習につながるという意味では、企業側は社員の学びについて何らかの仕掛けを考える必要がある」(孫氏)
個人が生産性を上げるためには、スキルアップや自ら学ぶことが重要になるが、現実は厳しい。企業における人材投資は、費用としてみなされ、コストカットの対象になることも少なくない。コロナ禍で経済が停滞する状況では、企業による積極な人材への投資に期待できるのは、一部の大企業を除いて難しいだろう。
個人はどのように学びと向き合えばいいのだろうか?
「コロナによってDXが加速したり、勤務もテレワークになったりしたように、仕事や働き方を時代に合わせて変えていくことが求められている。
オンラインによって学びの選択肢は大きく広がっており、オンラインを活用するなど学びを意識的に習慣化することも求められている」(孫氏)
(文・横山耕太郎)