東日本大震災の被災地で、防災集団移転促進事業が次々と動きだしている。宮城県では2、3の両日、亘理、女川、南三陸3町の復興整備協議会が開かれ、それぞれ3地区、13地区、3地区の集団移転計画が国の同意を得た。先行地区では住民たちの結束力が目立つ。一方で移転先用地の権利関係の整理など、新たな課題が浮上している地区もあり、集団移転の実現までに乗り越えるハードルはまだ多い。
◎女川/用地買収の遅れ懸念
宮城県女川町竹浦地区は女川湾の入り江に面し、60世帯約180人が暮らしていた。震災の津波で10人以上が犠牲になり、大半の家が流出した。住民は県内外に散り散りになったが、有志が昨年夏、町内でも珍しい復興委員会を設立。集団移転を目指した話し合いを重ねてきた。
「海の見える場所で、また一緒にみんなで暮らしたい」。郷土芸能「獅子振り」を通じた住民の結び付きは強固だった。月1回、20~30人が集まった。移転候補地を探して地質調査をし、新潟県中越地震で集団移転をした集落も視察。自前で移転計画や工程表も作り、町に提示した。
復興委員長を務める鈴木成夫さん(63)は「津波で何もかも奪われ、仮設住宅で人生を終えるのはみじめすぎる。希望する住民でそろって、早く安住の地に移りたい」と住民の思いを代弁する。
今回、国の同意を得た集団移転計画は町内13地区。今後、移転先の用地買収が本格化するが、課題も浮上している。
町によると、契約手続きに向けて土地を詳しく調べると、金融機関の抵当に入っていたり、所有者が死亡した後も相続人の登記手続きが行われていなかったりするケースが続出している。買収完了までに時間がかかる地区も出かねない。
町復興推進課は「用地買収が滞り、移転を望む住民と土地所有者の間にあつれきが生じることがないよう努めたい」と話している。(丹野綾子)