商品在庫などを担保に事業資金を企業に貸し出す「動産担保融資(ABL)」が、東北の地方銀行や第二地銀の間で増えている。東日本大震災の被災地を中心に、地価の評価額が大きく動いたことなどから、不動産担保に頼らない手法として注目されている。担保物件は建設機械から水産物まで多彩。金融機関側には、資産価値をどう見極めるかが課題で、「目利き」養成などの動きも出ている。
2007年にABL融資を始めた七十七銀行は融資実績が計47件、総額58億円に上る。震災後の活用が目立ち、震災に関連する企業への融資は計14件、総額34億円。
被災地の解体工事を請け負う工事業の光(仙台市)への昨年10月の融資では、新たに購入する油圧ショベルを担保とした。七十七銀は「復興を進めるため不可欠な企業と判断した」と説明する。
生コンや鋼材業者に債権を担保に融資を実行した例があり、同行は「ABLを使うことで、土地・建物では担保が不十分な被災企業に資金を供給できる」と強調する。
仙台銀行は宮城県内の畜産農家に、肥育するブランド牛を担保に融資。東北銀行(盛岡市)は昨年夏、復旧した沿岸部の水産加工会社に、仕入れ資金として最大1億円の融資枠を設定。担保にしたのはイカとサンマの在庫だった。
被災地以外では、みちのく銀行(青森市)がリンゴなど地場産品を担保に融資。アグリビジネス推進チームによる農商工連携といった支援も併せて進めている。山形銀行も「実績20億円を目標にABLの取り組みを強化する」としている。
ただ商品在庫の価値評価は難しく、一部の銀行には「融資が焦げ付いた場合、担保を処分、換金できるのか」との疑問もある。
各行は目利きの養成に取り組む。NPO法人日本動産鑑定(東京)が昨年創設した資格「動産評価アドバイザー」は、東北の金融関連17機関の計18人が取得した。取得者数は全国の2割超を占め、うち七十七銀は全国最多の8人に上る。
NPO法人の久保田清理事長は「決算書、不動産評価だけに頼らず、在庫などから取引先の実態を把握し融資するのは銀行業の原点のはず。専門家を育てることで、換金しやすい担保なども見極めやすくなる」と話す。