化粧品大手がインターネット戦略を加速させている。フェイスブックといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用して自社製品の認知度向上を狙う一方、これまで“掟破り”とされた直接顧客に販売するネット通販にも手を染め始めた。ネット販売は、主力の専門店や百貨店販売を脅かしかねないが、小売り全体でネット通販が普及する中、もはや無視できなくなった格好だ。ネット通販と既存店舗の共存、融合が化粧品大手の新たなテーマになりそうだ。
「とろけるような感触だね」。コーセーが7月下旬、東京・渋谷に設けた主力ブランド「エスプリーク」のイベントブース。若い女性が新作の口紅を試しては専用シールにキスマークをつけ、白いボードにペタペタと貼り付けていた。
3日間で集まったキスマークは約1600人分。東日本大震災の被災女性に向けた応援メッセージ「エナジー・オブ・キス(キスの力)」が形作られた。復興支援と新色のPRを兼ね、同社がフェイスブックで参加を呼びかけて実現した。
同社宣伝企画・PR課の丸山悦史氏は「SNSと現実社会を絡めて、いかに口コミを広げていけるかがポイント」と力を込める。
同社は2008年8月からマーケティング活動にSNSを本格導入。「まつげ美人」を選ぶコンテストとマスカラのPRを併せたり、スマートフォン(高機能携帯電話)で商品説明を行うなど、新たな宣伝手法を次々と編み出している。丸山氏は「ブランドによっては、広告費を3分の1程度に抑えられた」とSNSの効用を説く。
■顧客誘導、伸び悩む市場救う?
資生堂は来年4月、美容や健康をテーマにしたサイトを立ち上げ、「マキアージュ」や「エリクシール」など主力ブランド約3000品目のネット販売に踏み切る。ネット通販は、専門店などと契約して商品を販売する「制度品システム」を、脅かす危険をはらむ。このため、大手は参入に二の足を踏んでいた。
ただ、資生堂はサイトの最大の目的を「既存店舗へのお客さまの誘導」(同社)と位置づける。一部契約店との間で顧客データを共有するほか、近隣店舗のカウンセリングを予約できるようにする。こうした来店を促す仕組みを充実させ、ネットを使って既存店舗を盛り上げる作戦だ。
同社はアパレルや家電メーカーなど異業種にもサイトへの参加を呼びかけ、「かつてない複合的なサイト」(同社)を目指す方針だ。同社の顧客組織の会員は558万人(09年度)だが、新サイト開設により、その3~4倍の集客を見込んでいる。
一方、カネボウ化粧品は6月、百貨店で展開してきた「RMK」と「SUQQU(スック)」の2ブランドのネット通販に乗り出した。両ブランドはあえて社名を冠さずに、首都圏を中心とした百貨店で販売し、希少性を高めてきた。ただ、全国的な知名度が上がってきたため、ネットでも購入できるようにしたという。
サイトがオープンしてまもなく、未出店地域から注文が入るなどカネボウでは手応えを感じている。初年度は1億5000万円の売上高を目指している。
調査会社の富士経済によると、11年の国内化粧品市場は2兆845億円になる見通し。市場全体は縮小傾向にあるものの、ネットを含む通販(13.3%)は08年実績に比べて2.5ポイント上昇し、ドラッグストア(28.6%)に次ぐ構成比を占めるまでになりそうだ。伸び悩む化粧品市場にあってネット販売は救世主となりうるのか。各社の戦略の違いが今後の浮沈を決めるかもしれない。(米沢文)