東日本大震災による津波の影響で、宮城県石巻市の北上川河口で養殖される特産「ベッコウシジミ」の水揚げが激減している。津波が大量の貝をさらっていったとみられ、昨年の漁獲量は前年のわずか1割程度にとどまった。ことしの漁は6月に始める予定だが、大幅な改善は見込めないのが実情という。水揚げを確保するため、稚貝の放流を計画する北上追波漁協(石巻市)は宮城県や石巻市に支援を求めている。(吉江圭介)
<引き波が襲う>
漁協の蜆(しじみ)部会は昨年、震災の影響で例年に比べ3週間遅れの6月下旬に漁を始めた。11月までの漁期の漁獲量は7.6トンと、前年比で88%も減少した。
漁協関係者によると、巨大な破壊力を伴った津波の引き波によって、川底の砂地ごと貝が海に流されたと考えられる。
良質なシジミを育んできた漁場も打撃を受けた。河口部は1.5メートルの地盤沈下が起き、津波の直撃で入り口が広がったため、海水が流入しやすくなった。
シジミの成長に適している浅瀬の砂地が失われ、海水と淡水が混じり合った汽水域の環境バランスが崩れた可能性もあるという。
蜆部会長の茂木正彦さん(57)は「通常2年の養殖期間がどうなるかなど、成育への影響が分からない。一刻も早く貝を育てなければいけない」と気をもむ。
<放流に支援を>
ベッコウシジミは光沢のあるべっ甲色をした殻が特徴で、春先が旬。殻のつやが増して、身もふっくらとし、市場の評価は高い。
安定した水揚げを保つためには、稚貝の放流が欠かせない。ことしも5月に100トンを放流する計画で、費用は3000万円を見込んでいる。
漁協は水産庁の種苗放流支援事業を活用し、費用の3分の2は補助を受ける方針。残る3分の1は持ち出しとなるが、船を失うなど被災した漁業者にとって負担は重く、宮城県と石巻市に助成措置を要望している。
勝又二郎組合長(74)は「国の補助が決まったとしても、1000万円を全額自己負担することはできない。県と市にも何とか手助けしてほしい」と訴えている。