【北京】中国の習近平国家主席は国内の大半の経済活動再開を指示する一方で、新型コロナウイルス封じ込めを優先すべき2つの地域を指定した。1つは感染拡大の中心地となっている湖北省で、もう1つは首都の北京だ。
習氏は先週の演説で、北京でのウイルス感染拡大を阻止すべく全力を尽くさなければならないとし、「首都の安全と安定は党と国家の総体的な取り組みに直結する」と述べた。
当局は1カ月以上前から北京の観光地の多くを閉鎖しているが、最近になってそうした措置をさらに強化した。
北京中心部にある政府の主要施設付近では、故宮博物院(紫禁城)や天安門広場、国家博物館、国家図書館といった建物が全て閉鎖されている。当局は万里の長城も一部閉鎖した。
紫禁城の前を通る長安街はいつもなら人混みであふれているが、先週末は閑散としていた。複数の警察官が訪問者の身分証明書をチェックし、北京市民や過去2週間に北京から出ていないことを証明できる人のみを通していた。
先月28日には、警官が2人の訪問者に「残念だが、中には入れられない」と伝える一幕があった。 住所が北京ではなかったためだ。「病気にかかっていたらどうするんだ」
医学史学者によると、感染症の流行を防ぐために政治・金融の中心地を閉鎖するのは珍しい。コレラが流行していた1982年、米国のベンジャミン・ハリソン大統領はニューヨーク市の港湾で隔離措置を取った。1900年には、腺ペストの封じ込めを目指す当局がホノルルの中華街を封鎖した。リベリアは2014年、エボラ出血熱の感染拡大を阻止する取り組みとして、首都モンロビアの貧民街を隔離した。
新型コロナウイルス感染の中心地となった武漢から約1100キロメートル離れた北京では、感染者は比較的少ないが、病院2カ所と企業1社で集団感染が発生した。2日時点で確認された中国全土の感染者8万0151人のうち、北京の感染者は414人。全土の死者2943人のうち、北京の死者は8人となっている。
北京は政治の中心地というだけでなく、国営の巨大企業や民間ハイテク大手の拠点でもある。中国検索エンジン最大手の百度(バイドゥ)、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営するバイトダンス(字節跳動)なども北京に本社を置いている。
他の地域では一部の住民が自宅から外に出れなくなったが、北京の感染率は低く、つい最近まで住民の移動に対する制約は比較的少なかった。
ところが、他の地域が制約を和らげ始めると同時に、北京は取り組みを強化し始めた。中国の地方政府の半数以上が先週末までに、感染抑止措置の警戒水準を最高レベルから引き下げた。
その結果、北京は他地域から戻る住民の大量流入に直面することになった。住民2200万人のうち、約800万人は地方で住民登録しているが、その多くが春節(旧正月)の休暇で帰省したとみられる。
交通運輸省は1日、全てのタクシーや配車サービスに対し、北京から出たり、外部から北京へ入ったりすることを禁止した。都市間のバスサービスは既に1月下旬から運行が禁じられている。北京当局は先月28日、中国国内の他都市から北京へやって来る人全員に、14日間の自宅隔離を義務付けると発表。住宅地の監視強化を呼び掛けた。ウイルス流行が拡大している他の国からの訪問者も14日間の隔離を義務付けられる。大学は引き続き休校となった。
ここ2週間、北京市内の多くの地区で当局者が家庭を1戸1戸訪問し、新たな検問所を通るための許可証を住民に配った。
市当局はさらに先週、スーパーマーケットに対し、買い物客が互いからおよそ2メートル以内に近づかないことを徹底するよう命じた。企業に対しては、1日当たりの出勤者数の上限を通達した。
全国から何千人という代表が一堂に会す毎年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)も先週、延期が決まった。
隔離ルールで特に打撃を受けるのは、春節で北京から離れたまま、まだ戻ることができない地方の出稼ぎ労働者たちだ。多くはドライバーや工場作業員など、そこにいなければ稼げない仕事に就いている。
ジョンズ・ホプキンス大学の医学史教授、アレクサンダー・ホワイト氏は「感染流行への対策は、概して社会のエリート層を保護し、弱者を疎外するようなやり方で実施されることが多い」と指摘した。