北朝鮮の最高指導者だった金正日(キム・ジョンイル)総書記時代に、北朝鮮の秘密警察、国家保衛省(旧国家安全保衛部=保衛部)が、6000~7000人のスパイを日本など各国に派遣していたと、14日付の産経新聞が報じた。保衛部中枢の事情を知る脱北者が取材に答えたもので、日本国内などに現在も浸透している可能性が高い。
産経新聞によると、証言者は2013年に韓国に渡った崔金男(チェ・グムナム)氏。保衛部内に情報網を持ち、機密資料に通じてきた兄=12年に死亡=から、「海外に派遣されたスパイは6000~7000人に上る」と聞いたという。
兄によると、保衛部で諜報を統括する「反探局」と呼ばれる第2局は、特定地域に潜伏する「固定スパイ」を管理していた。海外派遣された要員も固定スパイが中心とみられる。反探局要員は諜報活動に加え、海外で活動する北朝鮮人の監視にも当たってきたとされる。
反探局について、兄は日本人拉致被害者の管理の一部を担うことにも言及したという。正日氏時代後期、反探局長が処刑されて指揮系統が混乱、海外スパイの6割と連絡が途絶えたことも明かした。
北朝鮮当局は、外国に浸透させた要員を通じて協力者を獲得し、海外の北朝鮮人や関係者にも諜報網を張り巡らせているとされる。日本でも、社会に溶け込む潜在的なスパイ「スリーパー」の存在が指摘されてきた。
日本にも多数のスパイが派遣された可能性が高い。識者はどう見るか。
元公安調査庁首席調査官の筒浦真憲氏は「スパイや協力者の多くは、日本全国に分散して、文字通り『眠っている』状態だろう。北朝鮮の最高指導者が正恩(ジョンウン)氏に代替わりして指揮系統も変わったはずだ。当局は有事に備えて諜報網や指揮系統を再構築しただろう」と語った。
ロシアのウクライナ侵攻や、中国の覇権主義的行動などで国際的緊張感は高まっている。
筒浦氏は「日本を取り巻く情勢は予断できない。有事となれば、日本国内のスリーパーにも、機微情報の収集や偽情報の流布、資金獲得などの指令が出るのではないか」と分析した。