北海道で初雪が降る直前に浮遊する「雪虫」は冬の到来を告げる風物詩です。今年は札幌など各地で視界を防ぐほど大量発生し、「これでは外出できない」と悲鳴があがるほど。その数は「平年の10万倍」と専門家は見積もります。
なぜ今年は「雪虫」が大量発生したのでしょうか。
屋根に積もった厚さ3cmの死骸
アプリ「ウェザーニュース」より
「雪虫」がどこで大量発生したのか、ウェザーニュースが北海道地区を対象に緊急調査を行いました(11月2日実施、192人回答)。その結果、札幌、函館、苫小牧などで大量発生したことがわかりました。
北海道立衛生研究所の伊東拓也研究員(感染症部医動物グループ)が証言します。「わが家の屋根に積もった『雪虫』の死骸の厚さを測ると3cmありました。平年の発生量を把握しているわけではありませんが、積もった死骸の量からして、平年の10万倍ほどの『雪虫』が発生したと思われます」
大量の「雪虫」が浮遊しているため「立っているだけで虫を吸い込む状況でした。健康被害は確認されていませんが、腐ったりカビが生えたりした死骸が野菜などに混入する恐れがあり、注意が必要です」と伊東研究員がつけ加えます。
大量発生したのは「ケヤキフシアブラムシ」
雪虫(トドノネオオワタムシ)
「雪虫」などアブラムシ類を研究する北海道大学農学研究院の秋元信一教授によると、「雪虫」と呼ばれるのは雪に似た形状の分泌物(蝋)をまとって飛ぶ体長約5mmの「トドノネオオワタムシ(上の写真)」ですが、今年大量発生したの「雪虫」の仲間の体長2mmの「ケヤキフシアブラムシ」でした。「ケヤキフシアブラムシ」は雪に似た分泌物をつけていませんが、同時に出現するため本種も雪虫と呼ばれることもあります。
「ケヤキフシアブラムシが大量発生したのは、北海道で8月、9月の気温が高めに推移したためと思われます。アブラムシの仲間は、春から秋にかけてメスだけで単為生殖を繰り返します。このため気温が高いと春から秋までの世代数が増え、個体数も爆発的に増えます。気温が高いと発育が速く進み、1世代にかかる時間が短くなるからです」(秋元教授)
今年の北海道は、2019年5月26日に観測史上初となる39.5℃を記録するなど厳しい暑さとなり、その後も秋にかけて全道的に高温傾向が続きました。それが「雪虫」の大量発生をもたらしたというのです。
来年以降も「雪虫」が大量発生する?
けやき(イメージ)
「札幌市周辺では11月に入ると『雪虫』は見なくなりましたが、懸念されるのは来年です。来年以降も大量発生すると、『雪虫』を吸い込むなどしてアレルギーを発症するなどの健康被害が心配されます」(伊東研究員)
「ケヤキフシアブラムシ」は、その名の通りケヤキを寄主にして卵で越冬し、早春に孵化して若葉の汁を吸って成長します。世代交代を繰り返しながら夏から秋はササに移住して繁殖。そして10月になるとケヤキに戻り、オスとメスの子どもたちを幹に生みつけます。
来年の夏も北海道で高温が続けば、再び「雪虫」が大量発生するおそれがあります。
参考資料など
写真:ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)