北海道新幹線が開業早々閑古鳥。不安視されるJR北海道の先行き

3月26日、北海道新幹線が開業した。昨年春の北陸新幹線延伸開業に続いて、2年連続の新幹線開業となる。北陸新幹線がそうだったように、北海道新幹線もさぞかし賑わいの中での開業となった……と思いきや、どうやらそうではないようだ。

開業初日こそ、沿線各地で祝賀イベントが行われるなどそれなりの華やかさを見せ、乗車率は61%を記録している。開業日には函館にも多くの観光客が訪れた という。ひと月前に発売が開始された1番列車のきっぷはわずか25秒で完売するなど、話題性はまずまずあったようだ。だが、それも初日だけ。2日目には乗 車率は37%まで下がり、平日となった28日にはすでにホームも車内も人の姿はまばらになってしまった。”北海道”の名のつく新幹線ではあるものの、札幌 では新幹線の話題をする人すら少なかったという。

◆はなから赤字が予想されていた

この有様、果たして想定内なのだろうか。鉄道専門誌の記者は、「予想通り」と断言する。

「誰 もが予想していた展開ですよ。北海道新幹線とは言っても、開業するのは新青森~新函館北斗間だけ。それまで鉄道が走っていなかったというわけでもないし、 時間短縮効果もほとんどない。昨年は東京から金沢まで新幹線で行けるようになり、所要時間も2時間近く短縮されたわけですから、それと比べたらいくらなん でもかわいそうです」

盛り上がりに欠けるのも当然と言わんばかりだ。この低調な滑り出し、北海道新幹線の運営主体となるJR北海道も承 知している。JR北海道の想定では、北海道新幹線の1日あたりの平均乗車率は20%台後半。さらに、路線収支でも赤字見込みであることを発表している。 2016年度の事業計画では、経常損益の赤字は過去最大の175億円にまで膨らむという。ただでさえ経営難に苦しみ、2020年には資金がショートする可 能性もあるという状況のJR北海道にとって、新幹線は”大いなる負担”としてのしかかっているというわけだ。

この惨状に、道内の経済関係者は「わかっていたことだし、そもそもの基本計画が間違っている」と言う。

◆間違いだらけの基本計画

「今 の北海道の鉄道路線を見ると、函館~札幌間の特急需要は比較的大きい。函館~札幌間のビジネスユースはそれほどないので、大半は観光客でしょう。ただ、今 回の新幹線は函館止まり。それでは道民にとってほとんど関係ないし、観光客にもロクに役に立たない。だから、函館~札幌間を先行開業して一定の成果を上げ てから、全線開業につなげるのが理想だった」

新青森~函館間と比べて時短効果が大きく需要喚起にもつながる函館~札幌間の先行開業こそ が必要だったというのだ。このような例は、九州新幹線で見られた。先行して新八代~鹿児島中央間を開業し、その後博多~新八代間を開業している。当初、沿 線に主要都市の少ない先行開業区間の利用者は少ないと予想されていたが、新八代で特急と接続する「リレーつばめ」の運行などもあって思いのほか健闘。九州 新幹線鹿児島ルートの全線開業弾みをつけている。この手法を北海道新幹線でも採用することはできなかったのか。

◆新青森~函館間が先になった理由

「整 備新幹線は、国が決定する整備計画に基づいて建設が進められます。今回の開業区間148.8kmのうち、約3分の1を青函トンネルが占めています。この青 函トンネルは、当初から新幹線が通ることを前提に作られたもの。そのため、設備の更新などは必要ですが、構造物そのものを新規に建設する必要はありません でした。こうしたことから、工期・費用面いずれを見ても、函館~札幌間を先行する理由は見つからなかったわけです。函館~札幌間先行開業は、議論にもなっ ていないと思いますよ」(前出の専門誌記者)

さらに、時の政権の方針に左右されがちな整備新幹線では、“実績作り”が重要という側面もあるという。

「時 間とお金のかかる先行開業を議論の俎上に載せれば、そもそもの“北海道新幹線不要論”に繋がる可能性が高い。それと比べれば、すでに3分の1が出来上がっ ている現開業区間なら、不要論にはつながりにくい。まず青函トンネル区間を作ってしまい、『北海道新幹線開業』という実績を作る。そうすれば、『札幌延 伸』も滞りなく行われるという算段があったのかもしれません」(前出の専門誌記者)

◆じわじわ首を締められるJR北海道

北海道新幹線開業新函館北斗~札幌間はすでに工事が進められており、開業は15年後の2031年度の予定。ただ、「前倒しして2031年になった経緯もあ るが、長大トンネルの続く区間でもあり、予想通りに進むとは考えにくい」(札幌市関係者)という声もあるなど、工期が長引く可能性も否定できない。そうな れば、工費がかさむだけでなく、JR北海道の赤字も積み上がっていくことになる。

「JR北海道への経営支援について、北海道は消極的な姿 勢です。いわば、経営面などでは民間企業扱いし、交通機関としては公共性を求める。大赤字を垂れ流している在来線の維持も『やって当然』と言わんばかりで す。そして、一方で道は鉄道に並行する高規格道路の建設を進めていく。さらにJR北海道の経営のクビをしめているんです。もちろん沿線の自治体に支援する ほどの体力はありません」(前出の専門誌記者)

北海道新幹線が札幌まで延伸すれば、今と比べれば遥かに大きな経済効果も見込まれるし、 利用者も大きく増加するだろう。ただ、一方で延伸開業予定の2031年度までJR北海道が生き残れる道筋は不透明だ。道の支援も得られず、沿線自治体も過 疎化が進む一方となれば、国が全面的な支援を行うしか手段はない。

JR東日本との合併を提案する専門家の声もあるが、年間100億円規模で赤字を垂れ流す企業との合併は、JR東日本の株主が認めるはずもなく、非現実的だ。

札幌延伸の2031年度、果たしてJR北海道は存在しているのか。それもこれも、今回開業した北海道新幹線新青森~新函館北斗間に、多くの利用客が集まるか否かにかかっているいうことなのかもしれない。

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