「高級料理」の代表格の一つ、焼肉。記念日や何かを頑張ったご褒美に食べるという人も多いのではないだろうか。だが、スーパーの安い肉を食べても全然平気なのに、奮発して高い肉を食べたときに限って下痢をする、ということは意外とよくある話。「教えて!goo」にも「焼き肉を食べると下痢をする?」という質問が投稿されているが、食中毒でもないのに、なぜ下痢になってしまうのだろうか?
■下痢を起こす2つの理由
この疑問を解決すべく、青山内科クリニック院長で消化器内科医の青山伸郎先生にお話を聞いてみた。そもそも、下痢になるときには体内でどのような現象が起きているのだろうか?
「便の水分含有量は約60%が正常ですが、下痢便は水分含有量が増加した場合を指し、結果として排便回数が増加します。下痢便になるのは、腸のぜんどう運動亢進、または、腸の消化吸収機能の低下が原因です」(青山先生)
腸のぜんどう運動とは、腸の収縮運動により、便を体外に排出させようとする動きのこと。よく便秘の人は「ぜんどう運動を活性化しましょう」といわれるが、これが通常より活発になると(亢進)、下痢になる。では、それが一体焼肉とどう関係するのだろうか。
■「脂肪分の摂りすぎ」と「アルコール摂取」で下痢になる!?
焼肉を食べた際に下痢になる一つめの原因は、脂肪分を多く摂りすぎたことだという。
「脂肪は、他の栄養素に比べて消化に時間がかかります。過剰摂取することで分解されず、そのまま腸へ移動することになります。脂肪自体に腸管ぜんどう運動亢進作用がありますので、下痢を起こすことになります」(青山先生)
高級霜降り肉など、脂肪分が多いと、それだけで胃腸への負担が大きいようだ。しかも、普段めったに食べられないからといって、野菜を摂らずにガツガツ肉だけ食べている人も多いのでは? 「高い肉だと下痢になる」という人は、脂肪分の摂りすぎが原因なのかもしれない。そして、もう一つの原因は、焼肉のお供となるアレだという。
「飲酒によるアルコールも原因として考えられます。アルコールは腸管をただれさせます(炎症)。また、アルコールは肝臓でアセトアルデヒドに分解されますが、その解毒のため、消化を助ける胆汁生成が追いつかなくなり、下痢を起こすことになります」(青山先生)
肝臓には、代謝、解毒、胆汁生成という主に3つの機能がある。アセトアルデヒドは二日酔いの原因物質といわれるが、肝臓の解毒作用により無毒化される。ビールと焼肉は相性抜群のコンビだが、アルコールの大量摂取によって間接的に消化不良を引き起こし、下痢になってしまうようだ。
これらの要因から、焼肉を食べて一時的に下痢になった場合は心配ないが、常時下痢が続いている場合は病気を疑う必要がある。青山先生によると、難病である潰瘍性大腸炎やクローン病も最近増加してるとのこと。下痢や腹痛が続く場合は専門医を受診しよう。
■下痢になる前に。脂肪分の少ない部位をチョイス!
では、下痢にならないためにはどのようなことに気を付けたら良いのだろうか。
「焼肉では脂肪分の多い種類に偏らないこと、また、消化する際、胆汁に依存する割合の少ない豆腐や味噌などの植物性タンパク質、チーズなど乳製品がすすめられます。食物繊維も効果的ですが、不溶性食物繊維は腸を刺激してしまうので注意が必要です。飲酒量を自分で調整することはいうまでもありません」(青山先生)
脂肪分が少ないといわれるのは、ヒレなどの赤身肉。カルビなどは脂肪分が多い部位なので、食べ過ぎないようにしよう。また、肉だけでなく、スープやサラダを一緒に食べるようにすると◎。ただし、豆類やきのこ類など不溶性食物繊維が多く含まれている食品は注意したい。
年に数回しか食べる機会がない人も多いであろう焼肉、下痢になってしまったらおいしさも半減。口にするものや飲酒の量に気を配り、楽しいひとときを!
●専門家プロフィール:青山 伸郎
消化器内科医。神戸大学医学部卒業後、同大学病院で内科医、光学医学診療部(内視鏡部)部長を務め、2007年青山内科クリニックを開業。胃・大腸合わせて年間26,000件、開業9年で胃11,800件、大腸14,200件施行。内視鏡診断治療、ピロリ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)治療を専門的に行い、炎症性腸疾患では県下では兵庫医科大学に次ぐ通院患者数。
(酒井理恵)