春節(旧正月)には詐欺や窃盗、強盗の類が付きものだ。1億2000万人もの農民工、つまり出稼ぎ労働者たちが故郷を目指して大移動を開始するのだが、その際つい手を出してしまうというのである。
取り締まる側の人から聞いた話だが、動機の大半は農民戸籍であるが故に都会でひどい扱いを受け、それでも故郷に錦を飾りたい一心で「やむを得ず手を出す」そうだ。また、戸籍のない民工たちを都会の公安(警察)が故郷まで追跡するのは非常に難しく、それを知っていて“行きがけの駄賃”で盗みを働くケースも多いという。
ただ、こうした話を聞いていて気になったのは、盗まれる方が盗む側よりむしろ悪いとされている点だった。人はさまざまな動機で盗みを働くのだから、被害に遭いたくなければ自らの責任で身を守れというのである。つまり自己責任こそが中国社会のキーワードなのだが、それになじめないのが日本企業だ。
例えば昨年10月に発覚した上海嘉定工業区からの外国企業立ち退き問題だ。この工業区はインフラ整備が遅れ入居する外国企業がなかなか見つからなかったのだが、第3次中国投資ブームがピークに達した2004年ごろに入居する日本企業が続出し、工場も完成していよいよ操業という段階に入って立ち退き要求に直面したのである。
実はこの要求にはどうもきな臭い土地疑惑が絡んでおり、台湾企業の場合だと用地を購入価格の2~3倍で売り抜けたケースもある。つまり工業用地を住宅用地などに計画変更するだけで不動産価格を引き上げることが可能なことを悪用して大もうけした連中がいるわけだ。残念ながら日本企業はそうした悪知恵を持ち合わせておらず、要するに「だまされる方が悪い」という結論になる。
中国ビジネスのコンサルタントをしている上海エリス・コンサルティング有限公司の立花聡代表が最近のニュースメールで「日本企業はこれまで、これでもかと中国市場でたくさんだまされ続けてきた。にもかかわらず投資だけが増大すれば、こんなバカなことが世の中にあってよいものかと言いたくなる」と書いているが、要は日本のナイーブさが中国ではそう簡単に通用しないと言いたいのだろう。
だが、中国ビジネスの難しさについては生き馬の目を抜くアメリカのビジネスマンもてこずっている。立花代表が中国ビジネスの本質を悟るためとして紹介するジェームズ・マックグレゴール氏著の「中国ビジネス最前線で学ぶ教訓」はその点を見事についている。
同氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルの元北京支局長で20年近い中国体験がある。
「もし魂を売っても良いというなら、中国の腐敗官僚と結束すればよい。どうせ売るなら、まず高い値段を付けて売りなさい。そして老後には慈善事業に専念すればよい」
「中国人は貴社にすべてを求めてくる。貴社がすべてを差し出すほど愚か者だと思っているからだ。そして多くの人はその愚か者である」
「中国で本当に力のある政治家や企業経営者は自らの決定に対し責任を取らないですむ方法を知っている人たちだ」
「やむを得ない場合を除いて間違っても国営企業と合弁を組むな。合弁の結果、中国側は貴社の技術、ノウハウ、カネのすべてを手に入れ、企業をコントロールする」
そして、中国でなぜ自己責任が重要なのかを知りたければ次のマックグレゴール氏の説明が適当かもしれない。
「多くの中国人は金銭をつかめばつかむほど、心を失っていく。この国は金もうけ以外、社会を牽引(けんいん)する理念が皆無だ。人々は親族や親友以外に誰も信用せず、ビジネス現場では詐欺行為が横行するのである」
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