千葉で投げ売り?マンション販売に異変 活況に沸く不動産業界に大きな懸念

アベノミクスの効果に2020年の東京五輪開催決定が加わり、首都圏のマンション市場は久しぶりの活況を呈している。
不動産経済研究所が10月16日に発表した9月の首都圏マンション発売戸数は、前年同月比77.3%増の5968戸。前年が東日本大震災の直後だった反動で大きく伸びた12年4月(同81.7%)以来となる高い伸び率を示した。契約率も83.5%と、好不調の目安とされる70%を8カ月連続で上回った。
もっとも、9月の販売好調は十分に予想されたことだった。通常、住宅は引き渡し時点の税率で消費税が課されるが、今回は特例として今年9月末までに契約を結べば、来年4月以降の引き渡しでも、税率を5%に据え置く措置が取られた。そのため、税率5%で購入しようという駆け込み需要が相当程度、9月の販売を押し上げたとみられる。
当然ながら、駆け込みが途絶えた後には反動減が危惧される。だが今のところ、マンション販売現場からそうした声は聞こえてこない。
たとえば、JR高田馬場駅から徒歩6分の場所で建設が進む「スカイフォレストレジデンス」(総戸数361戸)には、2カ月半で1000件を超える問い合わせがあった。10月中旬の3連休は、モデルルームが予約客で埋め尽くされた。「山手線の内側でありながら、戸山公園に隣接する環境のよさが評価されている」(住友不動産)。訪れた客から消費増税を気にしたコメントは出てこないという。
■増税後の購入がお得?
反動減の兆しが現れていない理由について、東京カンテイの中山登志朗・上席主任研究員は「セールストークの切り替えの速さ」を指摘する。検討中の客に「9月末までに買わないと、消費税が8%に上がってしまう」と説明していた営業マンが一転、10月に入ると「消費税が8%になると住宅購入支援策が拡充されるので、実は今買ったほうが得」と吹聴しているのだ。
すでに政府は消費増税による負担増への対策として、住宅ローン減税の拡充と「すまい給付金」の導入を決めている。みずほ総合研究所の試算では、消費税率が8%の時点で住宅を購入すれば、6割の世帯が増税前よりも有利になるという。
こうした政策効果もあり、不動産経済研究所では10月の発売戸数を例年並みの3500戸と予想。同研究所の福田秋生・企画調査部長は「9月までに比べるとペースは落ち着くが、安定的な需要を維持していると見るべき」と解説する。
だが一方で、反動減よりも深刻で構造的な問題が頭をもたげ始めている。その震源地が千葉県だ。
マンション分譲コンサルティング会社トータルブレインが、JR総武線沿線(市川─稲毛間)で12年以降に売り出されたマンションの販売状況についてヒアリング調査したところ、全体の47%に当たる10物件が「苦戦している」と回答した。
千葉県内では11年の東日本大震災をきっかけに、液状化の懸念や原発事故に伴うホットスポット問題が浮上。マンション販売は大きく落ち込んだ。風向きが変わったのは、震災の記憶が薄れ始めた昨年夏ごろ。全334戸が即日完売した「プラウド船橋一街区」を皮切りに、千葉では大手が主導する大規模物件が相次いで供給され、首都圏のマンション市場回復を牽引する形となった。
千葉での供給の増加は首都圏のマンション用地減少の流れをくむものだ。首都圏の限られた用地に不動産会社が殺到し、入札価格は大きく吊り上がった。その結果、不動産会社は相対的に地価の安い千葉県内で1次取得者(初めて住宅を買う人)向けの物件供給を増やしていった。
ただ、総武線沿線での急激な供給増により、足元では早くも需給バランスが悪化。駅前など立地条件がよく、大手不動産会社が手掛けた大規模物件しか、客を集められない市場環境になっている。本来であれば、販売に苦戦している物件は大幅な値引きが避けられないはずだ。
にもかかわらず、今のところ物件価格が下がる気配はない。
アベノミクスの影響もあり、マンション用地は「入札価格が1年半前に比べて3~4割上昇した」(千葉県内で分譲中のマンション販売大手)。労務費や資材価格も上がっているほか、「東北復興や東京五輪で需要が見込めるようになり、ゼネコンが建築費の適正化に動いている」(トータルブレインの杉原禎之常務)。つまり、マンション建設コストが高くなっているのだ。
「この状況が続くと、160万円前後で推移してきた稲毛周辺の坪単価は、180万円まで上がりかねない。ただ、それだと検討中の客の予算額を上回ってしまう。先行きは厳しい」(前出の販売大手)。
こうした千葉県内の現状について、トータルブレインの杉原常務は「08年のミニバブル崩壊前夜と似た状況にある」と指摘する。
■首都圏でドミノ倒しも
当時は海外などから投機資金が流入して、不動産価格が1992年のバブル崩壊直後に次ぐ高値水準まで上昇。1次取得者でも購入できる物件を求めて、不動産会社は今回と同様、郊外での供給を増やした。しかし、物件価格の上昇ピッチが客の所得増加のペースを上回り、売れ行きは日増しに悪化。売れ残りを嫌った不動産会社が値下げに走ったところ、物件価格の先安期待が高まり、客に様子見ムードが広がった。その結果、首都圏全体のマンション市況が総崩れとなった。
状況がまったく同じなわけではないが、需給バランスが崩れているにもかかわらず、コスト要因のみで物件価格が吊り上がる状況は共通している。ミニバブル崩壊の端緒となったのは東京都東村山市の物件だったが、今回は千葉県内の物件で同様の動きが起こる可能性はある。
東京都心での販売好調の一方で、千葉県内ではドミノ倒しの芽が膨らむ。需要の拡大は続くのか、それともミニバブルの二の舞いになってしまうのか。業界関係者は戦々恐々としている。
(週刊東洋経済2013年10月26日号)

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