高度経済成長期に千葉県成田市周辺などで造成され、空き家や空き地が目立つ「限界ニュータウン」とも称される分譲地では、時間の経過とともに、上下水道などの共用施設の老朽化や荒れ放題の擁壁の問題が浮かび上がっている。空き地の所有者の多くは東京都内などに住む不在地主で、未登記や境界未画定などの問題も指摘されている。「限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地」(太郎次郎社エディタス)を出版したウェブ投稿業の吉川祐介さん(41)(横芝光町)とともに現場を歩いた。(木村透)
共用施設、重い負担
成田市中心部から車で15分ほどの分譲地では、団地入り口に「告 土地建物購入の方へ」と題した看板が立っていた。住宅を新築する場合は、汚水管理組合の入会が必要で、施設負担金20万円、管理基金10万円を納入することと記されている。
分譲地は約150区画で、3割ぐらいにしか住宅は立っていない。分譲地の奥に、集中汚水処理施設があった。吉川さんは「全区画分の処理能力がある施設で、今の住戸数からすると明らかに過剰」と指摘した。「1区画30万〜50万円で買えるのに、汚水施設の負担金が30万円は割高。負の財産でしかない」と続けた。
地元の不動産会社によると、こうした共用施設の耐用年数は約40年。どこも限界に近づき、上下水道施設の毎月の維持管理費を5倍に値上げした分譲地や、漏水した上水道の補修費がかさんで積立金が枯渇している分譲地もあるという。
擁壁に囲まれた土地
次に訪れたのは、同市内の北向き斜面の分譲地。日当たりが悪いせいか家は2割ほどしか立っていない。傾斜地のため、区画の周囲には土が崩れるのを防ぐ擁壁が築かれ、最上部の擁壁は高さ3、4メートルある。吉川さんは「空き地の流通を妨げている最大の原因が擁壁」と言及する。
吉川さんによると、今のファミリー層は、1区画180〜250平方メートルの広さと2、3台分の駐車スペースを望むという。辺りを見回すと、区画の面積はその半分程度で、擁壁に囲まれた土地には、駐車スペースがないところが多い。
東金、山武市などにも似たような分譲地がある。山武市の分譲地では、擁壁にシャッター付きの車庫が作られていたが、シャッターはめくれ上がり、中にはブラウン管のテレビが捨てられていた。「まさに荒れ放題」と吉川さん。
未登記の土地
取得した土地の登記簿や公図の中から、区画に対応していない地番が数十も並ぶ奇妙な公図を見つけた。地元の不動産会社社長によると、所有者が地籍調査に立ち会わず境界が画定していない区画だ。社長は「今になって、土地を売りたいが、自分の土地はどこかと尋ねる人もいる」と話す。
不在地主の多くは高齢化して相続の時期を迎えるが、場所もわからない土地の相続手続きをする人がどれほどいるだろうか。2024年度からは相続登記が義務化され、放置すると10万円以下の過料を科される可能性がある。この社長は「未登記の土地は取引だけでなく、開発や道路拡幅の障害になる。何より子や孫に迷惑をかけるので早めに手続きすべきだ」と訴えている。
◆限界ニュータウン=空き地や空き家が目立ち、上下水道などの施設が老朽化した分譲地のことを指す。高度経済成長期の1970年代に土地投機ブームに乗って首都圏や関西圏の周辺部に開発された。投資目的の不在地主が多く、住宅を建てていない土地が目立つ。