午後6時半にPC強制シャットダウン 「残業アカン」は定着するか

「24時間戦えますか」はバブル時代の遠い昔の話。令和の時代は長時間労働抑制が喫緊の課題で、それは行政マンも例外ではない。大阪府は職員の働き方改革の一環で、午後6時半に業務用パソコンを強制的にシャットダウンできるシステムを来年度から導入する。民間で同様の取り組みはあるが、都道府県では全国初とみられる。吉村洋文知事は「仕事にメリハリをつけて力を最大限発揮して」と期待するが、職員からは「業務に支障が出るのでは」と戸惑いの声も上がる。(井上浩平)

【グラフでみる】働き方改革に取り組んでいる企業の割合

 ■残業手当は総額30億円

 「残業代も府民の税金。仕事に集中して速やかに終え、残りの時間をQOL(生活の質)を高めることに使ってもらいたい」

 吉村知事は11月下旬、大阪府庁での定例会見でこう語り、終業時間の1時間後の午後6時半になると、パソコンの電源が強制的に切れるシステムを採用すると明らかにした。

 対象は府警や学校関係の職員、管理職を除く約7600人。事前に残業の届け出をしておかなければ、同6時20分から1分ごとに「速やかに業務を終了し退出してください」との警告表示が出て、10分後に自動的に画面がオフになる。災害など緊急時は解除できる。来年度予算にシステム導入のため5千万円を計上し、来秋~冬に運用を開始する。

 府職員の時間外労働は年間約100万時間に及び、手当の総額は約30億円にもなる。吉村知事は「費用対効果は計算していないが、十分ペイする」と自信を見せ、「民間では夜中まで働くのが当たり前の時代もあったが、過労死事件などもあり見直されている」と強調した。

 時間外勤務の縮減だけでなく、仕事にメリハリをつける意識改革や、上司と部下がコミュニケーションをとる機会が増えることも期待しているという。

 ■管理職は好意的だが…

 ある府職員によると、残業をしていると、上司から「早く帰ったほうがいいんじゃないの」と声を掛けられることが増え、府庁でも「働き方改革」が盛んに叫ばれるようになっているという。新システムは、本当に働き方改革につながるのだろうか。職員の受け止めはさまざまだ。

 部下から残業の届け出を受ける立場になる50代の管理職男性は「残業申請を受けた時点で仕事の進め方について助言できるし、終わった後に『こうしたほうがよかったのでは』と指導もできる。業務が1人に集中しているなら、他の人に振り分ける平準化もできそうだ」と好意的にみている。

 一方、強制シャットダウンされる側には不安もあるようだ。

 40代の男性職員は「申請すれば残業できるとはいえ、それなら朝早く来て仕事をやろうとか、家に持ち帰ろうとなるかも」と吐露。30代の女性職員は「申請で残業できるなら今までと一緒。そもそも業務量が多いので、人を増やさないと根本的な解決にならないのでは」と指摘する。

 ■過労死ライン4割減

 全国の自治体で最も早く強制シャットダウンを導入したのが同府寝屋川市だ。市によると、長時間労働との関係は不明だが、精神疾患に悩む職員数が約2%で推移していたこともあり、職員の健康を守る目的で始めたという。

 システムは府とほぼ同じで、昨年4月から今年9月まで実施。10月から職員が午前8時~午後8時の間で働く時間を自由に選べる「完全フレックスタイム制」を始めたことに伴い中止していたが、フレックスタイム制を補完するため12月から再開している。

 平成29年度は、過労死ラインとされる月80時間以上の残業が延べ570人に上っていたが、導入後の30年度は4割減の348人に。100時間以上は半減の111人と効果がみられた。

 事前には府と同じく職員に不安の声もあったが、導入後に実施したアンケートでは「時間を意識して勤務するようになった」「資料を作成する前に必要か不要か判断するようになった」と、ほぼ全てが肯定的な意見だったという。

 市人事室の幸西大輔課長は「強制シャットダウンは、無駄な仕事を減らすだけでなく職員の意識改革につながる手段。その趣旨を浸透させることが大事」と話す。

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