政府は、半導体分野での国内投資を呼び込むため、アラブ首長国連邦(UAE)の政府系ファンドと近く実務者協議を始める方向で調整に入った。政府は、半導体の安定的なサプライチェーン(供給網)構築に向けた国際協力を進めており、中東地域の豊富な資金力を活用し、国内の関連企業の成長を後押ししたい考えだ。 【写真】最先端半導体の量産化へ、TSMCが台湾に研究開発施設
実務者協議は、経済産業省が窓口となり、UAEの政府系ファンド「ムバダラ・インベストメント」との間で行われる見通しだ。投資対象には、半導体の製造工程で使われる素材分野で優れた製造技術を有する企業や、装置の製造に携わる企業などを想定している。具体的な投資の枠組みなどは、今後検討する。
半導体を巡る各国の開発競争が激しさを増す中、政府は米国や英国と共同開発や研究を進めているほか、欧州連合(EU)とは、関連物資の不足による混乱を避けるための情報共有の枠組みを設けている。
欧米に加え、政府が中東地域に目を向けるのは、巨額の開発費用の調達が課題となっているためだ。昨夏に政府が主導して設立した新会社「ラピダス」では、まだ技術が確立されていない2ナノ・メートル(ナノは10億分の1)世代の先端半導体を2027年から量産化する計画を掲げている。技術の確立までに2兆円、量産ラインの準備に3兆円規模の投資が必要とされる。
岸田首相は7月の中東歴訪の際、UAEのムハンマド・ビン・ザイド大統領と会談し、半導体分野での協力を強化することで一致した。経産省幹部は、「中東諸国の潤沢なオイルマネーによって国内の企業を下支えしてもらえれば、半導体の供給網強化に向けた道はさらに開ける」と語る。
中東重視の姿勢の背景には、東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国が近年、中東地域で存在感を高めつつあることへの危機感もある。
中国は、習近平(シージンピン)国家主席が昨年12月にサウジアラビアを訪問した際に経済分野での協力を確認し、半導体分野でサウジから多額の投資を得ているとされる。政府は、経済安全保障上の観点からも中国の台頭に警戒を強めており、投資先を中国から日本に振り向けてもらう足がかりをつかみたい考えだ。