南三陸「化石のまち」へ前進 町民団体発足、イベント続々 新拠点の整備構想も

世界最古の魚竜化石の発見地・宮城県南三陸町で、化石を生かした地域活性化を目指す動きが熱を帯びている。町民有志が任意団体「Hookes(ほっけす)」を立ち上げ、今年から化石のロマンを伝えるイベントを積極的に開く計画だ。交流人口拡大へ新たな拠点施設を設ける構想も掲げる。(気仙沼総局南三陸分室・高橋一樹)

 世界最古の魚竜、発見地   

 ほっけすは化石などの地域資源を「掘り返す」の意味。主に歌津の生産者や宿泊業者、水産加工業者ら6人が昨年秋に結成した。

 キックオフシンポジウムが1月27日に同町歌津であり、中心メンバーの漁師高橋直哉さん(42)は「町内どこにでも化石があり、車で20分で1億年の旅ができる。こんな町は他にない」と強調。観光客向けのイベントや親子向けワークショップ、小中学校での授業を行う考えを示した。

 シンポジウムで講演した東京都市大の中島保寿准教授(古生物学)は、南三陸で見つかった5種類の魚竜や、国内最古の両生類として自身が発見したマストドンサウルスを紹介。約2億5000万年前の海で生物の大量絶滅があったことに触れ「南三陸には海洋生態系の進化の謎を解く鍵が眠っている」と熱弁した。

 旧志津川町では1952年に初めて魚竜化石が見つかった。70年には旧歌津町で2億4200万年前に生きた世界最古の魚竜化石(愛称・ウタツギョリュウ)が発見され、「ウタツサウルス」の学名が付いた。

 町内では、東日本大震災の復旧工事の過程で発見が続く。高橋さんが18年に始めた化石発掘体験イベントには、町内外から親子連れが集まり、定員を上回ることも多い。

 ほっけすは、シンポで(1)発掘体験に訪れた親子の多くが、体験後は買い物や食事で町外に移動してしまう(2)人材や場所が足りず収蔵したままの化石がある-といった課題を指摘。親子をターゲットに化石を展示し、南三陸杉を使った木育スペースや物産店、カフェを備えた新たな拠点施設ができないか提案した。

 高橋さんは「化石は多くの親子が南三陸を訪れる強い動機になる。楽しく学べる場所をつくりたい」と訴えた。

 会場で提案を聞いた佐藤仁町長は、化石に専念できる人材の手当てを考えていると明かし、施設についても「皆さんと膝詰めで話し合いたい」と前向きな姿勢を見せた。

南三陸町で産出された主な化石

「魚竜館」再建めど立たず 震災で被災の化石展示施設  

 南三陸町が誇る化石の展示施設として、かつては歌津地区に「魚竜館」があった。東日本大震災の津波で被災し、再建のめどは立っていない。

 魚竜館は1990年、魚竜化石(愛称・クダノハマギョリュウ)が見つかった歌津地区の海岸に旧歌津町が建設した。2階に町内で見つかった魚竜、アンモナイトなどの化石や模型を展示し、1階に併設した水産振興センターでは魚介類などの特産物を販売。隣の建屋でクダノハマギョリュウの化石を保存した。

 町がドイツから購入した魚竜化石、イタリアの友好町ベザーノ町から贈られたレプリカも置かれた。99年には世界の化石を集めた特別展や、国内外の化石研究者を招いた国際魚竜サミットが開かれた。

 震災後、化石の大部分は東北大の文化財レスキューチームが救出して修復。一部は町歌津総合支所の展示室に並んでいる。

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