南三陸沿岸のクチバシカジカ「新種」 北大調査で判明

南三陸町沿岸などの海底に生息する魚「クチバシカジカ」は日本の固有種であることが、北海道大の研究チームの調査で判明した。1998年に繁殖が確認され、南三陸のキャラクターにもなったクチバシカジカが「新種」だったことが裏付けられた形で、町内の研究者らは25年越しの認定を喜んでいる。

繁殖確認から25年 地元研究者「うれしい」

 クチバシカジカは黄やオレンジの体長5センチほどの魚で、海底を跳ねるように移動するのが特徴。98年9月14日、旧志津川町のプロダイバー佐藤長明(ながあき)さん(53)が女川湾で繁殖行動を初めて観察した。国内では志津川湾など三陸沿岸でのみ繁殖が確認されている。

 北米の太平洋沿岸にも生息するが、形が異なり別の種ではないかと指摘されていた。北大北方生物圏フィールド科学センターの宗原弘幸教授(魚類生態学)らが日米で計約60個体を集めてDNAを解析した結果、同種であれば1%未満の違いしかない遺伝子の塩基配列に6%以上の違いがあった。頭の大きさなど形態でも統計的に有意な差がデータとして集まり、固有種であると結論付けた。

 宗原教授は「サンプルを集めるのに時間がかかったが、長年の責任を果たせてほっとした」と話す。

 クチバシカジカは愛嬌(あいきょう)のある姿でダイバーの人気を集めた。2007年に町の商工会が誕生させたキャラクター「クチ坊」は、現在もJR気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)の車両や町発行の商品券にプリントされている。東日本大震災で志津川湾が津波に見舞われた後の12年夏も生息が確認され、復興のシンボルにもなった。

 北大のチームに所属し、南三陸ネイチャーセンターで生態の研究を続けている阿部拓三研究員(48)は「東北で何百年、何千年と進化してきた魚と認められて純粋にうれしい。水中で会ったらおめでとうと声をかけたい」と喜ぶ。

 研究チームは最初に繁殖行動を発見した佐藤さんの名前にちなみ、新種のクチバシカジカに「ランフォコッツス・ナガアキー」という学名を付けた。

 現在は函館市でダイビングショップを営む佐藤さんは「ダイビングを始めるきっかけになった魚で、とても光栄。海底の片隅で平和に暮らし、見ていて応援したくなるクチバシカジカをもっと多くの人に知ってほしい」と語った。

タイトルとURLをコピーしました