厄介な「外国人ツーリスト投資家」に注意せよ 日本には2種類の「外国人旅行者」が来ている

日本への外国人観光客が増加している。円安の効果、官民の宣伝努力、アニメやゲームなどを通じての日本の知名度アップ、ネット上での「口コミ」情報の広がりなど、複合的な要因が寄与しているのだろう。
■長期的に日本ファンを増やすチャンスが到来
さらに2020年の東京五輪へ向けて、期待は高まる。日本政府観光局によれば、2013年年間の訪日外国人数(ビジネス目的の訪日等も含む)は1036万人と1千万人の大台に乗せた。2014年も1~10月の累計で、前年同期比で27パーセント増を記録している。このままの増加ペースを保てば、今年年間では1317万人に達することになる。
観光庁「訪日外国人の消費動向」をみると、一人当たりの平均滞在日数は13.1泊だが、観光・レジャーを目的とした場合は平均6.2泊となっている。ざっくり年間の50分の1(365日÷50=7.3日)滞在したとすれば、1317万人÷50=約26万人が、1年を通して日本に住んでいるのと同様との計算になる。これは日本の県庁所在地では、徳島市の人口(今年11月時点で26万2千人)とほぼ同じだ。
もちろん、日本に定住している人のように、大型家電製品や乗用車などを買うわけではないが、逆に観光のために集中してお金を使うだろう(前掲の観光庁の調査では、日本滞在中の支出は一人当たり平均13万円強)。こうした国内景気の押し上げ効果が期待される。
しかし本当に期待すべき効果は、他にもある。訪日観光客はもともと日本に好意を持って訪れてくれるわけだが、「おもてなし」の心に触れて、さらに日本が好きになる人が多いだろう。
これは「ソフトパワー」として外交上プラスだが、自国に帰っても、日本製品を買い、日本から進出した小売・外食企業に立ち寄る人が増える、という効果も見込まれる。米国に進出した伊藤園のペットボトル入りお茶は、お茶には砂糖が入っているものだ、との米国市場の「常識」に風穴を開けたが、これは日本を訪れた人が無糖のお茶を経験した、という点も追い風になったのではないか。
日本製品で今注目されているのは、花王の「めぐりズム」や小林製薬の「熱さまシート」など、海外にはないタイプの日用品だ。また目薬、携帯用ステンレスミニボトル、家電では炊飯器、美容家電なども人気で、海外の口コミサイトでも薦められている。
ここで挙げた諸製品は、いずれも人体に対して使う、あるいは飲食に関するものだ。日本製品が高品質なことが、健康面で使用上の安心感をもたらしているのだろう。
また日本の諸都市は、大気や水の質が良く、ゴミが少なく、治安が良く、電車が時間通り来るなど、優れた都市環境を有している。北九州市など地方自治体では、過去の公害問題などの解決策を、「都市ソリューション」として売り込もうと努めている。日本の都市を実際に訪れた人が海外で増えれば、日本からのインフラや都市ソリューション輸出に力を貸してくれるはずだ。
■短期の「ツーリスト投資家」には、「情」などない
さて、日本経済にとっては、日本に対して好感を持つ旅行者の増加が明らかにプラス要因となっているが、日本の株式市場でも「旅行者」が、ときどき影響を及ぼすことをご存じだろうか。
要は、こういうことだ。2013年は、4月4日の異次元の緩和を契機に、外国人の短期投資家が5月下旬にかけて日本株を一気に買い上げ、6月半ばに向けては一気に売りを出した。短期筋に国内株式市況が攪乱されたわけだが、先週の筆者の米国出張中に、ある金融関係の取材先が、「そうした連中を「ツーリスト」(旅行者)と呼ぶのだ」と教えてくれた。
こうした「ツーリスト投資家」は、訪日旅行者と違って、日本に対しては何の情もない。ある短期筋は、「別にアベノミクスで日本経済がどうなろうと、われわれは日本に住んでいるわけでもないから、関係ない。ただ、アベノミクスで投資家が騒ぎ、株価が上がりそうであれば買うし、株価の動きが止まれば売る、それだけのことだ」と語っていた。
一方、こうした短期投資家の多くは、残念ながら不勉強でもある。それまで日本のことを全く知らなくても、おもしろそうだと思えば、いきなり投資を始めるからだ。
短期筋のなかには、「消費増税の先送りが話題になっているが、そもそもなんで10%に引き上げることになっていたんだっけ?」と平気で質問するレベルの者もいるのだ。すでに日本株に投資しているにもかかわらず、である。訪日観光客の方が、日本についてよく下調べしていると思う。
■「ツーリスト投資家」の売り逃げによる波乱に注意
今回も日銀の追加緩和を契機に、株価が上振れしているが、果たして昨年と同様なのだろうか。ツーリスト投資家は手っ取り早く日経平均先物を買う。こうした短期買いが主役の相場では、裁定取引が発動して、日経平均採用銘柄の株価ばかりが押し上げられ、NT倍率(日経平均株価÷TOPIX)が上昇する。
最近でNT倍率がピークをつけたのは、昨年5月の株価ピーク近辺(2013年5月27日)、昨年末の株価ピーク時辺り(12月25日)と、最近(今年11月13日)だ。やはり足元も、短期筋の買いによるところが大きいと懸念される。
投資家別の売買動向を見ても、国内勢が売り越し気味の中、外国人投資家の一手買いだ。短期筋から、「買っているのは、われわれだけなのか?これでは株価は持たない。いつ売り逃げようか」との、不安の声が寄せられる。日経平均株価の頭が重く、1万7500円をなかなか突破できないでいるのは、一手買いに不安を覚えたツーリスト投資家が、そろそろ逃げ始めているからだろう。
中長期のスパンで考えれば、国内企業の収益は増益基調であり、外国人投資家でも年金などの長期筋は下値での買いを狙っているため、ツーリスト投資家が売りに回っても、それほど大きく株価は崩れず、株価上昇が見込めよう。
それでも短期的には、日経平均株価はいったん1万7000円を割り込み、場合によっては10月31日と11月4日の間のローソク足の「窓」を埋めに行くリスクが高いと考えている。今週の日経平均株価は、1万6500円~1万7600円を予想する。

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