6月5日、年金制度改正法が公布された。コロナ禍のどさくさの中、ろくに議論もされないまま、どのような制度変更が決められたのか。自らの老後を守るために、その内実を知っておく必要がある。
今回の制度変更によって、これまでは厚生年金に加入する必要のなかったパート妻が保険料を払わなくてはならないケースが出てくる。
現行制度では、パート妻など短時間労働者は「年収106万円」を超えたところで扶養家族から外れ、自分で厚生年金や健康保険に加入して保険料を払わなくてはならなくなる。ただし、このルールが適用されるのは従業員501人以上の企業で働く人だけだった。
それが2022年10月以降は101人以上、2024年10月以降は51人以上の企業まで適用拡大されていく。「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏がいう。
「表向きは非正規労働者の社会保障問題にすり替えていますが、年金財源が不足するなかで、保険料を払う人を少しでも増やしたいのです。コロナ不況で収入が頭打ちになるなか、さらに手取りを減らそうという改悪といえます。
改悪を強行する厚労省の狙いは、サラリーマンの夫の厚生年金に加入し、保険料を自分で負担しなくても基礎年金がもらえる『第3号被保険者』の妻をどんどん減らしていくことにあるといえます」
10年前に1000万人いた第3号被保険者は、すでに約800万人まで“激減”した。この数字を限りなくゼロに近づけようとしているというのである。専業主婦は保険料を払わずに年金が受け取れるという時代は、終わりに差し掛かりつつあるのだ。
パート妻は「ちょっと働く」より「どんどん働く」
「今後も適用拡大の流れが続くことが明白である以上、パートで働く妻は『106万円の壁』を気にしながら中途半端に働くのをやめたほうがいいでしょう。厚生年金の保険料支払いを避けようとするよりも、むしろ壁を越えてしっかり働き、妻が自分の厚生年金を増やしていくことが有力な対策となる」(北村氏)
女性は平均寿命が長いので、ある程度年齢を重ねてから厚生年金に加入しても、保険料を取り戻すのは決して難しくない。
たとえば50歳で夫の扶養を外れて厚生年金に加入した年収106万円の女性が70歳まで働いたケースと、同じ期間を厚生年金に加入せずに働いた場合を比較したのが別掲の図だ。厚生年金に加入すると保険料負担が年間約9万6000円発生するが、将来の年金は年額約11万円増える。
「76歳の時点で払った保険料を取り戻すことができ、それより長生きすれば得になります。女性の平均寿命は87歳ですから、似たような収入なら『106万円の壁』をあえて越えてしまい、厚生年金に加入したほうが有利になる可能性が高い。もちろん、もっと稼げれば、将来の年金額をさらに増やせることになる」(社会保険労務士の北山茂治氏)
同様に専業主婦だった人が、働きに出ることで、将来の夫婦の年金額を増やす選択もあり得る。
※週刊ポスト2020年9月18・25日号