原発「処理水」海洋放出へ「安全上の問題ない」、事実上の審査合格…原子力規制委

東京電力福島第一原子力発電所で増え続ける「処理水」を海洋放出する計画について、原子力規制委員会は18日の会合で、安全上の問題はないとして、審査結果をまとめた審査書案を了承した。事実上の審査合格となる。規制委は今後、一般からの意見公募を経て正式に審査書として決定し、計画を認可する。

 ただ、放出用の海底トンネルの本格工事が遅れる見通しで、政府と東電が目指す来春の放出開始には間に合わない可能性がある。

 処理水は放射性物質トリチウム(三重水素)などが含まれた水で、5月12日現在、約130万トンが敷地内のタンクに保管されている。タンクの容量は来年夏〜秋には満杯になるとみられる。保管が続くと廃炉作業の支障となるため、政府は昨年4月、来春から海洋放出を始める方針を決めた。放出終了までには数十年間かかる予定だ。

 東電は昨年12月、海洋放出の実施計画の認可を規制委に申請した。計画では沖合約1キロ・メートルまで海底トンネルを建設し、その先端から放出する。放出前に海水で薄め、トリチウム濃度を国の排出基準の40分の1以下にする。規制委は4月までに計13回の会合を開いて審査した。東電は会合での指摘を受け、処理水の漏出検知用の流量計を多重化するなど安全性を高めた。

 規制委は19日から30日間、意見を公募し、その結果を審査書に反映する。東電は既に海底トンネル建設に向けた掘削などの準備を始めているが、本格工事の前には地元の福島県と大熊、双葉両町から事前了解を得なければならず、着工の条件が整うのは7月以降とみられる。トンネル建設には10か月半ほどかかるため、放出開始は来春以降になる可能性がある。

 同原発では、2011年の炉心溶融(メルトダウン)で溶け落ちた核燃料が固まった核燃料デブリの冷却が続く。冷却後の水は高濃度の放射性物質を含む汚染水となり、地下水や雨水が混ざって量が増える。放射性物質の大部分は多核種除去設備(ALPS)で取り除けるが、トリチウムは除去できずに残る。

風評被害防ぐ発信必要

 原子力規制委員会による審査書案の了承で、東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋に放出しても、人体や環境への影響は考えにくいことが認められたといえる。風評被害を懸念する漁業関係者らは放出に反対しており、政府と東電は処理水の安全性について丁寧な情報発信を続ける必要がある。

 放射性物質トリチウム(三重水素)を含む水は、事故が起きていない通常の原発の運転中にも発生している。これを基準値以下に薄めて海や川などに放出することが、国際的に認められている。

 福島第一原発に現在保管されている処理水に含まれるトリチウムの量は約780兆ベクレル。経済産業省によると、カナダのブルース原発からは、2015年の1年間でそれを上回る約892兆ベクレルを含む水が放出された。中国は19年に計907兆ベクレルを放出、日本も福島第一原発事故前の10年には計約370兆ベクレルを放出していた。

 これに対し、福島第一原発の処理水の海洋放出では、年間のトリチウム放出量を22兆ベクレル以下に抑える。処理水のトリチウム濃度は平均1リットルあたり62万ベクレルだが、放出前に海水で薄めて同1500ベクレル未満とする。国の排出基準(同6万ベクレル未満)の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水基準(同1万ベクレル未満)の7分の1程度だ。

 政府や東電はこうした事実を国内外に丁寧に説明して風評被害を防ぐ努力を続けるとともに、風評被害が生じた場合の対策を徹底してほしい。(服部牧夫)

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