原発で「偽装請負」 県出身者ら証言

深刻な事故となった東京電力福島第1原子力発電所など、全国各地の原発で被ばく作業に従事する原発労働者の一部が「偽装請負」の形態で労働していることが、25日までに複数の元原発労働者の証言で明らかになった。勤務先の4次、5次の下請け協力企業からさらに仕事を請け負う形で、個人事業者として名前だけの「ペーパー会社」をつくらされて独立していたが、仕事の内容は従来のままだった。最も安全性が求められるべき原発で、使用者が実質的に労働者を雇用していながらも雇用保険や被ばくの責任を免れるため、「請負」や「委託契約」の形で働かせるというずさんな労働環境の実態が浮き彫りになった。
 中部電力浜岡原子力発電所などで勤務歴のある川上武志さん(64)=静岡県御前崎市=や、浜岡原発の協力企業で勤務していた県出身男性(72)らが証言した。
 また、この県出身男性は「原子炉内とか線量が高い所は県出身者が多く、浜岡だけで200から300人はいた。名前を見てすぐ分かった」と証言。「独立させられる人もいた。理由も知らずに…」と高放射線エリアで従事させられる県出身者が「偽装請負の餌食」になっていると明かした。
 川上さんらは10年以上原発に勤務経験がありながら、雇用保険や厚生年金が未加入だったため待遇改善を求めたところ、勤務先から「独立」を勧められた。名目上は事業主となったが、給与は上がらず元の勤務先の監督下での作業に変わりはなく、労働条件は一向に改善しなかったという。
 放射線被ばくにさらされる原発労働者らには「放射線管理手帳」が手渡され、原則として5年間で100ミリシーベルト、1年間で50ミリシーベルトの線量限度を超えないように管理されている。限度を上回ると被ばくする場所、原発内での勤務が不可能となる。そのため、川上さんらは「高レベルの場所で働かされて、使えなくなると切り捨てられる」と語る。
 企業が労働者を雇用する場合、労災や雇用保険の加入義務が生じ、一定の条件で厚生年金などの社会保険の負担が必要。しかし、労働者が「独立」した事業主と位置付けて「請負」や「委託契約」の形態をとることで、労災などの義務を免れる「偽装請負」が問題化している。
 原発労働者を追い続けている写真家の樋口健二さんは「原発の下請け会社は労働者から搾取して、ぼろ雑巾のように使っている。原発は国策であり、国はきちんとこの問題と向き合わなければならない」と指摘した。(仲村良太)
<用語>偽装請負
 契約上は業務請負だが、実質的には労働者派遣の状態。実際の請負は業務を丸ごと委託されるため、派遣先企業の指示で働くことは認められていない。派遣先企業が労働者を使いやすいよう、直接指示して働かせるケースがあり、企業へ労働者を送り込むだけの実質的な派遣業となってしまう。雇用主が行うべき社会保険や労災防止などの責任の所在があいまいになる弊害が指摘されている。

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