東京電力福島第1原発から半径20キロ圏内に取り残された牛の調査を進めている東北大の福本学教授(病理学)らのグループは、原発事故で放出された放射性セシウムが牛の精巣や精子の形成能力に与えた影響はなかったとする研究結果をまとめ、8日付の英科学誌電子版に発表した。
福本教授は「今後は受精卵を雌牛に移植したり、人工授精をしたりして遺伝影響の有無を調べていきたい」と話す。
グループは、福島県川内村で2011年9月に捕獲した生後11カ月の雄牛と、雌牛の体内にいた妊娠8カ月の雄の胎児、12年1月に同県楢葉町で捕獲した生後12カ月以上の雄牛の計3頭を分析した。
解剖して精巣の放射性セシウム濃度を調べたところ、川内村の牛で1キログラム当たり408ベクレル、胎児で387ベクレル、楢葉町の牛で1304ベクレルを検出した。
精巣は、放射線の影響を受けやすいとされるが、顕微鏡を使った観察では、いずれも内部の形に異常はなく、精子も通常の数だった。また、細胞分裂して精子ができる過程も調べたが、被ばくしていない検体と比べて異常は見られなかったという。