取れる魚変化、活用模索 <海洋異変・宮城の水産現場から>

全国有数の水産県・宮城の海に異変が起きている。地球温暖化や東日本大震災による海況変化を背景に、海藻消失や主力魚種の不漁といった問題が顕在化。プラスチックごみ流入が生態系に及ぼす影響も深刻になっている。豊穣(ほうじょう)な恵みをもたらす大海を次代へどう引き継ぐか-。「第40回全国豊かな海づくり大会」に合わせ、浜の現状や関係者の動きを追う。

加工業者に打撃

 宮城県内のスーパーの鮮魚売り場で「新顔」が目を引く。タチウオ、サワラ、ガザミ(ワタリガニ)。西日本を中心に漁獲され、南方系と呼ばれる魚が水揚げを伸ばしている。
 愛媛や長崎で取れるタチウオは2015年ごろから三陸沖に現れ、20年は宮城県内で約390トンが水揚げされた。都道府県別の漁獲量で、宮城は東北から唯一のトップ10入りが確実。有力な「産地」になりつつある。
 一方、宮城の港町の経済を支えてきた主力魚種は軒並み歴史的な不漁に見舞われている。
 気仙沼市、女川町の代表魚種のサンマは20年の県内水揚げ量が9718トン。過去10年で約8割減った。地元漁師によると、北海道南東沖ではサンマの好む海水温より3、4度高く、漁場が沖合に離れる状況が続く。操業効率の悪化やコスト増を招き、好転の兆しは見えない。
 春漁の代名詞と言える仙台湾のコウナゴ漁は今季も2年連続で水揚げゼロ。秋サケは来遊数が減り、20年は過去20年で最低の約18万8000匹だった。海況の異変が漁獲量の低迷をもたらし、浜には重い空気が漂う。
 石巻魚市場の佐々木茂樹社長は「取れる魚が明らかに変わってきた。主力魚種の水揚げが減るとその間、地元の加工業者の仕事がなくなり、経営的な打撃は大きい」と危機感を抱く。

長期的調査必要

 親潮と黒潮、沿岸部を南下する津軽海流が複雑に交わる三陸沖は世界屈指の好漁場とされてきた。県水産技術総合センター(石巻市)は「寒流の親潮の勢いが弱まっている上、温暖化に伴う海水温上昇で魚の生息域が変化している」とみる。
 伊藤貴所長は「サンマが沖合に離れたのは近海にイワシやサバが多く、近寄れないためとの見方もある。温暖化が全ての原因とは言い切れない」と指摘。「魚種転換がどれほど続くかの判断は難しい。長期的な調査が必要だ」と言う。
 漁獲の先行きが見通せず、新たな魚種を加工するための設備投資に踏み切れない水産業者も多い。水揚げされても生鮮販売一本に頼らざるを得ない。
 現状の打開へセンターは本年度、南方系の魚の消費拡大を図る研究に乗り出した。ブリの幼魚のワカシ、チダイと取り扱いの増えた魚種の栄養成分や加熱時の性質を分析し、適切な加工方法を探る。
 研究拠点の水産加工公開実験棟(石巻市)では薫製機や中骨取り機、真空包装機といった46種類の食品加工機器を配備。水産会社や食品メーカーによる年間約160件の利用実績を踏まえ、商品開発や加工技術向上を後押しする。
 水産資源の変動で転換期に入った宮城の海。水産加工開発チームの三浦悟副主任研究員は「見慣れない魚は消費者が手を出しづらいが、用途が広がれば付加価値も高まり、認知度も上がる。そのとき取れる魚をどう活用するかという視点が求められる」と語る。
(石巻総局・大芳賀陽子)

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