古民家部材、新たな命 津波被害の柱・はり、商業施設へ

東日本大震災の津波被害を受けて取り壊された宮城県山元町の民家で使われていた柱やはりなどの部材が、来春オープン予定の名取市内の農場と加工場を併設する商業施設に引き取られることになった。柱やはりの一部は100年近く前のもの。地域や家族の思いが詰まった部材は、新たな場所で命を永らえる。
 部材を提供することになったのは、山元町山寺の渡辺喜美子さん(80)。自宅は70年前に亘理町から移設されたという。かつてはかやぶきで、2階でカイコを飼っていた。ケヤキの柱やマツのはりは100年近く前のものとみられる。
 家は津波で1階天井まで水が押し寄せ、がれきで埋まった。古い民家だけに、修繕には一般の木造住宅よりも費用がかかると言われた。「何とか歴史のある家を残せないか」と渡辺さんは願ったが、解体以外に選択肢はなかった。
 10月になって、名取市で暮らす長女が、イオンモール名取エアリ近くに商業施設ができることを知り、事業主体の一般社団法人「東北復興プロジェクト」(仙台市)に掛け合った。既に設計が進んでいたため移築はかなわなかったものの、柱やはりなどの部材が古い長持などとともに商業施設のそばレストランなどで使われることになった。
 施設は、被災者や地元の障害者の雇用を支える復興事業として同法人が計画した「食と農」の複合施設。敷地内に石窯焼きのパン店や加工場、農場も備え、最大100人程度の雇用を見込む。
 当初、年内を目指した開業は来年4月にずれ込む見通し。同法人役員で農業の6次産業化に取り組むコンサルタント「ファミリア」(仙台市)の島田昌幸社長(28)は「いろんな思いが詰まった家の一部。地域の記憶として残せるなら、こちらもうれしい」と話す。
 解体を見届けた渡辺さんら家族も「家がなくなるのは寂しいが、一部でも残ってくれるのはありがたい」と施設の開業を心待ちにしている。

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