台湾人旅行者を積極的に受け入れる動きが仙台市内に広がっている。親日家の多い台湾人に体験型のプログラムを提供し、リピーター増や地域活性化につなげる狙いだ。東日本大震災からの復興や交通アクセスの充実も追い風となり、「杜の都」に足を運ぶ台湾人は今後も増えそうだ。(報道部・水野良将)
■ビール試飲満喫
10日、キリンビール仙台工場(宮城野区)を台湾人10人が訪れた。東北大の留学生、林建豪さん(24)と両親らは「一番搾り」「二番搾り」の麦汁の飲み比べや瓶ビール製造ラインの見学、ビールの試飲を楽しんだ。「泡がきめ細かくて飲みやすい」と会話が弾む。
林さんは母国の台北大から東北大に留学中。ビールが好きな家族の仙台観光に合わせて工場見学を計画した。父の林細松さん(55)は「ビールの製造プロセスを見たのは初めて。勉強になった」と喜ぶ。
仙台工場は震災の津波で被害を受け、半年後に製造を再開した。地域の復興が進むにつれて台湾人客が急増し、2018年は約1600人と外国人客全体の半数を占めた。広報担当者は「周辺にはアウトレットモールや水族館、ホテルなどもあり、エリア全体を楽しむお客さまが増えている」と話す。
■「ならでは」提供
東北の空の玄関口である仙台空港は現在、仙台-台北線が毎日運航(週19便)し、多くの台湾人が利用する。
仙台空港で8月下旬、台湾人観光客向けに打ち掛けの着付けを体験できるイベントがあった。数十人の台湾人女性が参加し「一生こんな体験はできない」「家族や友達に自慢できる」などと感想を語った。企画した社団法人ジョイント・ベンチャー実践支援機構(青葉区)の高橋弘代表理事(58)は「仙台でしかできない体験を提供することで、他の地域や空港と差別化できる」と説明する。
仙台市も台湾を重要な観光市場と位置付ける。フェイスブックやガイドブックを通じて市内のイベントや施設、食などの情報を発信。18年度には交流促進協定を結ぶ台南市での博覧会に出展し、中心商店街の買い物のしやすさや自然の魅力、特産品をPRした。
市によると、18年の国・地域別宿泊者数のうち、台湾人は最多の約8万8000人。市誘客戦略推進課の高橋みちる課長は「台湾人は親日的で、旧暦の七夕の時期に祭りを開くなど風習も似ている。相互交流を活発にし、20年の東京五輪・パラリンピック後も継続して来てもらえるようにしたい」と展望する。
◎蔵王地区、岩手・山形のスキー場 仙台との周遊に活路
台湾人の受け皿は仙台以外でも整いつつある。
観光プロモーション会社VISIT東北(宮城県丸森町)は日台両地に台湾人スタッフを配置し、宮城県南を中心に誘客を図る。遠刈田温泉のある蔵王エリアが人気を集めるほか、台湾は雪が降らないため、岩手、山形両県などのスキー場も需要がある。
東北の自治体は震災後、「東北観光復興対策交付金」の活用などで台湾人の誘致活動を展開。仙台市との周遊に力を入れる。ホテルや旅館では中国語(北京語)を話せるスタッフの雇用、翻訳機の導入といった動きも増えている。
VISIT東北の斉藤良太社長(37)は「台湾の方はリピーターが多く、『まだ見ぬ秘境を見たい』『郷土料理を食べたい』といったニーズもある。台湾人を迎えるプレーヤーが東北各地に増え、安心感や満足感が上がっている」と話す。