中国沿岸部に位置する台湾・馬祖列島に昨年、海砂採取船など中国の民間船舶が大挙押し寄せ、環境破壊を引き起こした。
今月上旬、なお深刻な後遺症が残る馬祖を訪れた。(馬祖列島・南竿島、北竿島 杉山祐之、写真も)
「浜ではエビ1匹取れなかった」
台湾軍の防御陣地「トーチカ」が点在する馬祖列島の海岸部から明るく輝く西の海を眺めると、10キロほど先に中国福建省の高層ビル群や風力発電機のプロペラが見える。
馬祖の人口は約1万3300人。そのうち約7600人が住む南竿島の浜辺で民宿を営む林建中さん(53)は昨年夏、悪夢のような光景を見た。
「たった2日で、目の前の砂浜が消えた」。いつもの夏なら季節風や海流の関係で、ひと月ほどかけて砂が消え、秋に戻ってくるという。異変は他の浜でも起きていた。
原因は自分の目で確認できた。多数の中国海砂採取船が沖合で操業していた。10月、事態は更に悪化した。数百隻の大船団が馬祖に来たのだ。島民らは「見渡す限り、海が中国船で埋まっていた。怖かった」と口をそろえる。
海砂採取船や砂の運搬船に、漁船も交じっていた。民進党地元支部の李問主任委員がその理由を解説する。「水深二十数メートルの海域で行われる海砂採取で、エビやカニ、貝類、魚など砂地の生物が巻き上げられる。それを食べる大型の魚も集まる。だから漁船が海砂採取船に寄ってくる」
海の生態系が根こそぎ荒らされた。林さんは「去年、浜ではエビ1匹取れなかった。もう漁も釣りもだめだ」と肩を落とす。2月の旧正月頃に海砂採取船はほぼ消え、砂も徐々に戻ってきたが、その厚みは以前の同じ時期に比べると、1メートル以上減ったという。