牛丼チェーンの吉野家が、煮卵や牛煮込み、牛皿などをつまみにアルコール類を飲める「吉呑み」サービスの対象店舗を、近く全店(約1200店舗)に広げる 計画だ。都心の駅前店舗などが中心だったが、郊外のロードサイド店舗に広げ、客数、売り上げアップにつなげたい考えだ。ただ、吉呑みの拡大については歓迎 する声がある一方、「飲酒運転の懸念が広がる」などの否定的な見方も出ており、狙い通りに売り上げアップに結びつくか、注目を集めそうだ。
吉呑みは2015年4月に開始したサービスで、現在約350店で導入。つまみの価格は100円~490円で、夕方から夜までの時間帯でサービスを提供している。1000円前後という低価格でほろ酔い気分が味わえるとあって、サラリーマンを中心に人気は高い。
吉野家が吉呑みの導入店舗の拡大を急ぐ背景には、来店客数の落ち込みがある。その引き金となったのが、14年末の牛丼の値上げだ。牛丼の並盛り価格を 300円から380円に引き上げた14年12月~16年1月までの既存店客数は14カ月連続で前年実績を下回った。16年2月の客数は前年同月比15カ月 ぶりに前年実績を上回ったものの、16年3月は再び前年実績割れに転じるなど完全復活にはほど遠い状況だ。
吉野家は夜の時間帯の来店客数が書き入れ時の日中と比べると少ないだけに、アルコール類を提供する吉呑みの展開は来店客のアップのほか、つまみの販売も 増え客単価のアップが期待できるというわけだ。市場関係者の間では、「吉呑み対象店の拡大は、落ち込んだ客数を取り戻せる公算が大きい」(中堅証券アナリ スト)と前向きに評価する。
「飲酒運転が増えそうだ」、「酔っ払いの横で落ち着いて食事なんてできない」
吉呑みについてソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などネット上ではこんな手厳しい書き込みもある。郊外のロードサイド店に吉呑みの導入 は、飲酒運転につながる懸念がより広がる恐れがありそうだ。また、お酒を楽しんでいる人の横で食事はしづらいと、来店に二の足を踏む客が増えることも考え られる。
ただ、ここにきて夕方以降にアルコール類を提供する「ちょい飲み」サービスを開始するファストフードなど外食チェーン各社が相次いでいる。日本ケンタッ キー・フライド・チキンは1日、東京・高田馬場にアルコールを提供する新型店をオープンしたのをはじめ、コーヒーチェーン大手、スターバックスコーヒー ジャパンは東京・丸の内に食事や酒などを提供する店舗を3月30日に開店した。
景気の先行き不透明感が強く、売り上げアップが見込めない中で、「ちょい飲みサービスは、売り上げアップにつながる起死回生の起爆剤」(大手外食チェー ン幹部)と位置づけている。各社、ちょい飲みにこぞって参入するものの、提供店舗は一部店舗にとどまる。「需要を見極めたい」(日本ケンタッキー・フライ ド・チキンの能村耕司新規事業部長)というのがその理由だ。今回の吉野家のチャレンジの成否は、外食チェーン各社のちょい飲みサービスの今後の戦略を占う 試金石となりそうだ。(松元洋平)