味の素からAJINOMOTOへ──。「2020年までに食品で世界トップ10入り」を目標に掲げる味の素が、着々と“グローバル仕様”への変身を進めている。
5月10日に発表された16年3月期の通期決算では国内外の食品事業が好調で、売上高1兆1859億円(前年同期比18%増)、営業利益910億円(同22%増)の増収増益を達成した。
また、14年11月に買収した米ウィンザーの通年連結で、北米エリアの売上高比率が上昇。「アジア偏重だった地域別ポートフォリオのバランスが取れてきた」(西井孝明社長)ことで、為替ヘッジが利き、為替による大幅な利益変動も避けられるようになった。
一方、収益性の低さには課題が残る。味の素の営業利益率は約8%で、スイスのネスレ(営業利益率約15%)や英蘭ユニリーバ(同約15%)には、遠く及ばない。
世界の巨人と伍するには、さらなる収益性の向上は必須だ。そこで、味の素は、低採算に悩んでいた医薬事業にはメスを入れた。
薬価引き下げ等の影響で「もうからなくなった」(味の素幹部)医薬事業を消化器疾患領域に一本化。残った消化器疾患領域も、4月からエーザイとの合弁会社EAファーマ(出資比率はエーザイ6割、味の素4割)に移管し、連結対象から切り離したのだ。
一連の改革では、約166億円の特別損失を計上し、純利益の下方修正も余儀なくされたが、世界レベルの収益性を目指すため、一時的に“血を流す”決断をした。
国際化へ労働時間も短縮
営業利益に占める海外比率も5割程度と、事業ではグローバル化が進む味の素。しかし、対照的に組織体系は古いままで、日本の本社のルールに世界26カ国の現地法人が合わせてきた。
例えば、本社への報告レポートは日本語で行われ、現地に日本人スタッフを本社から派遣して対応するのが常だった。
しかし、西井社長は「これまでの組織体系では、世界で戦えない」と言う。そこで、4月より東京本社をグローバルHQ(ヘッドクオーター)に位置付けて、組 織改革を実施。報告レポートは英語のフォーマットで統一したほか、投資の決済額やM&A(企業の合併・買収)部隊も各地に配置し、現地の裁量を増やした。
加えて、労働環境の改革にも着手。17年4月からは1日の労働時間の20分短縮を決め、常態化している残業労働の削減も目指す。「国籍を問わず優秀な人財を確保するためには、組織や労働環境をグローバル基準に合わせる必要がある」(西井社長)からだ。
急な変化に社内では戸惑いもあるが、世界トップ10入りに社員のマインドチェンジは必須。「トップダウンで行う」という西井社長の改革は成功するか。味の素の真価が問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)