和歌山がバイク普及率全国一、理由は道路事情だけじゃない

梅やミカンの収穫量が全国一の和歌山県が、オートバイ・スクーターの普及率でも都道府県で1位の座を維持し続けていることはあまり知られていない。

 平成に入ってから行われた国による6回の調査では、1台以上所有する世帯の比率が30~50%台にも達し、毎回2位以下に大きく差をつけている。その背景には、山がちな地形や道の狭さ、雪があまり降らない温暖な気候、農作業との関係などさまざまな事情がありそうだ。

(張英壽)

過去6回不動の1位

 総務省が5年ごとに実施している全国消費実態調査によると、和歌山県は、2人以上の世帯がオートバイ・スクーターを1台以上所有している比率を示す普及率が平成元年43・4%、6年56・9%、11年46・2%、16年43・2%、21年42・1%、26年33・3%で、47都道府県中、すべての年で全国1位だ。ここで言うオートバイ・スクーターには、排気量50cc以下の原付きバイク(原動機付き自転車)も含まれている。

 26年の2位以下は、愛媛(27・3%)、京都(25・0%)、奈良(23・9%)、高知(22・9%)で、近畿と四国に集中しているが、30%を超えているのは和歌山だけだ。一方、普及率が低いのは北海道(5・1%)、福井(5・2%)、鳥取(7・2%)の順で、いずれも雪国になっている。

 そのほかの年の2位以下は多少、順位が入れ替わっているが、和歌山の1位は不動で、2位以下と6~16ポイントもの差をつけている。

 全国消費実態調査は26年までで、昨年実施された全国家計構造調査では、オートバイ・スクーターの項目はなくなった。

梅などの作業も関係

 なぜ和歌山県はオートバイ・スクーターが他都道府県に比べて突出して多いのだろうか。

 県南部の中心都市・田辺市で原付きバイクを中心に販売するバイクショップ「サイクルオートなか」高雄店店長の中裕文さん(44)は「田辺のまちは上り下りが激しく、(中心部の)JR紀伊田辺駅近くの道も狭いため人気」と話す。

 田辺市など県内の沿岸の都市は中心部近くまで山が迫っているのが特徴。傾斜地には名物の梅やミカンが栽培されている。

 スーパーに90ccオートバイで買い物に来ていた田辺市内の無職女性(69)は「坂が多いので、オートバイがいい。これに乗って山の上にある親族のミカン農家に手伝いにも行きます」と教えてくれた。

 県南部を管轄するJA紀南によると、ミカンや梅の農作業には軽トラックが使われることが多いが、原付きバイクなどに乗ることもあるという。担当者は「軽トラックに農機具を乗せるが、2人までしか乗れないため、手伝いにいく家族らは狭い道を走れるバイクで来ることがある」と説明する。

急峻な山間部で利用「単に好き」の声も

 総面積から林野面積と主要湖沼面積を差し引いた可住地面積という考え方がある。文字通り人が住める土地の広さを指し、総務省がまとめた社会生活統計指標によると、和歌山県の可住地面積割合は平成30年度で47都道府県のうち42位の23・6%と低く、山間部が多いことがわかる。

 自動車・二輪車メーカーのホンダ広報部で二輪車を担当する高山正之さん(64)は、和歌山県のオートバイ・スクーターの多さについて「確証はないが、急峻(きゅうしゅん)な山間部が多く、公共交通機関が発達していないことが関係しているのではないか。また温暖な気候で、雪があまり降らないことも大きい」とみる。

 ただ可住地面積割合は和歌山県が最低ではなく、ほかに温暖な地域や降雪が少ない地方もある。

 「統計データが語る 日本人の大きな誤解」などの著作がある統計データ分析家の本川裕さん(68)は「なぜ和歌山が1位なのかは簡単に説明できない。雪が少ないことや山間部が多く、道が狭いことなどは一因ではあるが、決定的な理由とはいえない」という。そのうえで「公共交通が充実していない地域では車はないと困るが、二輪車は必需品の性格が弱い。和歌山県民は単純にバイクが好きなのかもしれない」と推測する。本川さんによると、台湾は世界で最も二輪車が普及しているが、その理由もはっきりしないという。

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 和歌山県はオートバイ・スクーターの普及率が全国で圧倒的に高いが、平成6年の56・9%から26年は33・3%に減少した。全国平均でも元年の19・5%から26年には13・5%に落ちている。

 業界関係者は「バイクは中高年の愛好者が身体の衰えなどから離れる一方で、少子化で数が減った若者はあまり興味を示さず市場に参入しない傾向にある」と説明する。

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