唐揚げ専門店がタピオカ跡地に乱立 出店急増、3つの理由

コロナ禍の巣ごもり消費、テークアウト需要を見込んで、唐揚げ専門店の出店が相次いでいる。すかいらーくグループは唐揚げ専門店「から好し」をファミリーレストラン「ガスト」内に併設する方法でガスト全店に展開する。低コストの出店・運用が魅力だが、昨今の出店ラッシュはいささかオーバーストア気味にも映る。 【関連画像】主な唐揚げ専門店チェーン一覧  東京・池袋駅から東武東上線の各駅停車で約10分。上板橋駅南口の「上板南口銀座商店街」を歩いて1分としないうちに、テレビプロデューサーテリー伊藤氏をかたどったキャラクター像が見えてくる。ここは20年6月にオープンした唐揚げ専門店「から揚げの天才」。揚げたての唐揚げと、実家が卵焼き店を営むテリー伊藤氏監修の卵焼きをウリに、ワタミが店舗運営している。 店内に4席ほどイートイン可能なカウンター席があるが、来店客の大半はテークアウト目的だ。

 そこから商店街をさらに2分ほど進むと、川越街道に突き当たる手前にファミリーレストラン「ガスト」がある。入り口に掲げられているのは「から揚げ専門『から好し』」の看板。すかいらーくグループは唐揚げ専門店「から好し」のガスト併設を進めていて、唐揚げメニューの店内飲食、テークアウト、デリバリーに対応している。

 上板橋駅の反対側、北口の駅前ロータリーに店を構えているのが「こだわり唐揚げ から正」。運営元はケータリング事業を展開する東京正直屋(東京・中央)で、21年2月3日に3号店としてオープンしたばかりのテークアウト店だ。そして北口ロータリーを出てときわ通り沿いに見えてくるのが「神のからあげ」。20年11月にオープンした唐揚げのテークアウト専門店である。

 上板橋駅エリアでは駅構内のファミリーマートと北口側のイトーヨーカドー、そしてヨーカドーの向かいにある専門店「福のから」でも唐揚げを取り扱っている。そこへ冒頭の4店が、コロナ禍のここ1年以内で立て続けにオープンした格好だ。

 「そういえばウチの近所にも…」と思った人も多いだろう。昨年来、唐揚げ専門店の出店が加速している。市場調査会社の富士経済(東京・中央)によると、唐揚げをメインに提供するイートイン、テークアウト店の市場規模は、19年の853億円から20年は23.1%増の1050億円に拡大する見通し。21年3月9~12日に東京ビッグサイトで開催された「フランチャイズ・ショー2021」でも、唐揚げ専門店FC加盟店を募集する各社ブースがひときわ目立っていた。21年3月21日には、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏がTwitterで、「からやまって何だ!? 食べに行ってみたい!!」とツイートして話題になった。さながら唐揚げ狂騒曲といった感がある。

 唐揚げの人気そのものは今に始まったことではない。2009年に“唐揚げの街”大分県中津市の「元祖!中津からあげ もり山」、大分県宇佐市の「大分からあげ専門店とりあん」が都内に出店したことをきっかけに専門店の出店が相次ぎ、2010年には日本唐揚協会なる団体も設立。日本一の唐揚げを決める「からあげグランプリ」を毎年開催している。その後、とんかつチェーン「かつや」を運営するアークランドサービスホールディングスが唐揚げ専門のイートイン店舗「からやま」を14年12月にオープン。すかいらーくグループも17年10月に「からよし」で追随したが、その店名やメニュー構成が酷似しているとして、アークランドが店名の使用中止を求める訴訟を起こしたことは業界で話題になった(※店名を「から好し」とすることで和解)。

 そんな唐揚げ専門店が、コロナ禍でさらに飛躍することになった。要因は大きく3つある。1つ目は、外食自粛と調理疲れ。巣ごもり環境の長期化で自炊や総菜の調達が増える中、油で揚げ物を作る手間が省けて、かつ安価な唐揚げは持ち帰りに適したメニューだった。好き嫌いが分かれず老若男女に好まれるメニューである点も好都合だ。

 2つ目は比較的低コスト省スペースで出店が可能なこと。テークアウト用途であるため、店舗立地は必ずしも駅前の一等地ではなく賃料が安めのエリアでも構わない。ワタミ運営の「から揚げの天才」では出店費用を999万円に抑えたフランチャイズモデルを開発。最短2年で投資回収が可能になっている。同店は10坪で月商500万円を超える店が相次ぐなど、売れ行きは好調だという。10坪の店なら店員2人で回せるため、オペレーションもローコストだ。

 3つ目は調理が簡単なこと。飲食店の調理場経験がなくても、フライヤーがあれば誰が作っても変わらない味に仕上がる。同じ鶏でも焼き鳥の場合は、「串打ち三年、焼き一生」という言葉があるくらい職人技だが、唐揚げにはそこまでの奥深さはない。作業工程をマニュアル化しやすく、人も集めやすい。

 この利点を取り込もうと動いたのが、コロナ禍で売り上げが落ち込んだ外食大手だった。緊急事態宣言の発令によって20年4月の既存店売上高が前年比58.2%減と大きな影響を受けたすかいらーくグループで、前年並みを維持したのはテークアウト比率が高い唐揚げ専門店「から好し」のみ。今後もテークアウト需要が続くと想定されるため注力したい店だが、新規出店は時間もコストもかかる。

 そこで同社は「から好し」を「ガスト」内に併設する“から好しINガスト”策を打ち出した。20年8月に4店舗で実験を開始し、以後、20年12月末に476店、21年2月末に1000店弱と急ピッチで拡大。4月末には約1300のガスト全店で対応する予定だ。

コロナ禍明けが勝負の本番

 から好し導入済みのガストでは、来店客の約15%がから好しのメニューを店内飲食し、女性比率が高めのガストにおいて男性客を増やす効果が出ている。コロナ禍で強化したかったテークアウト注文が未実施店と比べて57%増と成果を上げ、導入店の売り上げは未実施店比7%アップした。ガストに併設する形で既存の厨房を利用するため、出店費用をほとんどかけていないのが強みだ。  調理場を有効活用する方法もある。飲食店運営・支援のグロブリッジ(東京・港)が展開する「東京からあげ専門店あげたて」は、実店舗がなくウーバーイーツに出店する形のゴーストレストラン。居酒屋「金の蔵」などで知られる三光マーケティングフーズが業務提携し、稼働率の下がった居酒屋店の調理場を利用して調理、配送している。

 出店が相次ぐ唐揚げ専門店だが、コロナ禍はやがて収束を迎える。夜の街に人が戻ったとき、乱立気味の店舗は売り上げを維持できるのか。冒頭で挙げた、上板橋駅北口ロータリーにオープンした唐揚げ店は、タピオカ店が閉店した物件に店を構えている。タピオカブームの下り坂と新型コロナウイルスの感染拡大がちょうど重なっているため、新規オープンした唐揚げ店が閉店したタピオカ店の跡地に店を構えているケースが多い。まだ少数ではあるが、既にオープン1年足らずで閉店する唐揚げ店も出てきている。大量出店から大量閉店に至ったタピオカ店の二の舞は避けたいところ。コロナ禍明けに生き残り競争が幕を開けそうだ。

タイトルとURLをコピーしました