唐揚げ店が減って「おにぎり専門店」が増えた理由とは? 明暗を分けた要因は「インフレ」がカギだった

コロナ禍で始まった新しい風習といえば、オンライン飲み会ではないだろうか。ステイホームなど自由に外出ができなかった時期は、家の中で少し贅沢な晩酌をするのが楽しみだった人もいるはずだ。 【どっちが勝った!?】カルビーVS湖池屋ポテチ界の頂上決戦の勝敗 テイクアウトでも美味しさが損なわれない唐揚げ。コロナ禍が始まってからの数年は、唐揚げ店を見かける機会が増えていたが、ここ最近は閉店が目立ってきた気がした。その代わり、テイクアウトを中心としたおにぎり店が増えてきている。実際、渋谷駅周辺を例にとっても徒歩10分圏内におにぎり屋が、なんと8店舗もあった。 おにぎりならば、コンビニやキヨスクでも購入できるはずだ。しかし、わざわざおにぎりの専門店が立ち並ぶようになったのは、なにかしら理由があるはずだ。経営コンサルタントの平野敦士カール氏に聞いてみた(以下、「」内はすべて平野氏の発言)。 ◆増え続けた唐揚げ店の店舗数、一時期はマクドナルド超え ’19年の消費税増税時に店外飲食だと軽減税率が適用されることから、テイクアウト販売店が増加。唐揚げ店はコロナ禍のテイクアウト需要の追い風に乗り、店舗数を増やしていった。 「唐揚げは、コロナ禍の外食控えや自炊疲れの受け皿となりました。同時にテイクアウト・デリバリー需要が拡大したこともあり、最盛期は、ゴーストキッチンと呼ばれる実店舗を持たない、デリバリーに特化した唐揚げ店もありました」(平野氏) 日本唐揚協会が発表した’22年4月時点での店舗数は、全国で推定4379店舗。’12年の450店舗から10年で約10倍となっている。マクドナルドが約3000店舗、ケンタッキーが1197店舗という数と比べても、店舗数の多さがうかがえる。そういった唐揚げ店の急速な増加も、相次ぐ閉店の原因のひとつだという。 「唐揚げ専門店は、ほかの飲食店に比べて小規模な敷地面積で、低コストに出店できる。なかにはもともとタピオカ店だったものが、台湾・韓国系チキンの店にくら替えしたケースも多かったですね。また唐揚げは比較的シンプルな料理であるため、プロの職人も不要。このような開業のしやすさも相まって店舗が増えすぎたために、店舗間での差別化が難しくなっていきました」(平野氏) ◆唐揚げ店の減少と、おにぎり店の増加の最大の要因は“インフレ” 唐揚げ店の市場は飽和状態となり競争が激化していた矢先、さらに大きな要因が重なる。それは昨今のインフレの影響により、原材料費が高騰したことだ。 「唐揚げ店は、鶏肉や油などの輸入品や原材料費の高騰により、価格に転嫁しにくくなりました。その点、おにぎりに使われている米は国内生産が主のため、円安による輸入インフレの影響を受けず、原材料費を比較的安くできます。製造工程も簡単なので、すしのようにプロの料理人という人材確保が不要。そのため商品を低価格で提供でき、競合となるお弁当やハンバーガーなどと比較しても手ごろな価格帯です」(平野氏) コンビニで販売されているおにぎりも、軒並み100円以上となった。わざわざ食べるのならば、本格的なおにぎりを求める高級志向が反映されている。 「近年の物価高の影響による節約意識の高まりから、一食から満足感を得られる食事の需要が増加し、高コスパなおにぎりが人気を集めているのではないでしょうか。おにぎり専門店では、消費者の好みに合わせた多様なトッピングや見栄えにこだわった“進化系おにぎり”が提供されています。具が米からはみ出るほど大きかったり、まさにインスタグラムなどでも映えたりするようなおにぎりです。 コンビニでもいくらなどの具材を使った高単価のおにぎりが人気なことから、“高級おにぎり”のマーケットが実証されました。おにぎり専門店では、家ではできないぜいたく感が味わえるユニークなメニューが提供されています。まさに“いまの時代に合ったプチぜいたくファストフード”がおにぎりなのです」(平野氏) 確かに、ハンバーガーや唐揚げよりもおにぎりはバラエティに富んでおり、ヘルシーな食材も選べる。さらにコロナ禍の巣ごもりの時期を経て、人々の健康志向が高まったことも追い風になったようだ。 「高カロリーで脂質の多い唐揚げよりも、ヘルシーで持ち運びもしやすく手軽に食べられるおにぎりが、忙しい現代人に改めて支持されているのではないでしょうか。競合のハンバーガーは値上げ続きな点を踏まえても、おにぎりは腹持ちも良いうえに手ごろな価格です」(平野氏) ◆今後も増え続けるおにぎり店 おにぎり専門店は、オーブンや大型冷蔵庫など、他の飲食店と比べて特別な設備を必要としないため、開業しやすい。小スペースの場所やキッチンカーなどでも出店できるので、今後も店舗数は増加傾向だという。 「関東を中心にアメリカやヨーロッパにも店舗を持っている『おむすび権米衛』やJRの駅構内を中心に出店している『ほんのり屋』なども店舗数が増えています。東京都豊島区の大塚にある『おにぎりぼんご』という、行列ができるおにぎり専門店の系列店舗も、今後増えていくようです」(平野氏) 消費者たちの健康志向に加えて、物価上昇。いろいろな要因が複合的に作用し、これまで勢いのあった唐揚げ店の衰退につながっていった。その反面、これまでも身近だったおにぎりがより具材などのバリエーションを増やし選ばれるようになった。この現象は、いつまで続くのだろうか。 「これまでも飲食店では、タピオカや高級食パンなどのブームがありましたが、日本の伝統的な食べ物であり、日本人に古くから親しまれているおにぎりは、一過性のブームではなく定着していくと思います」(平野氏) もしも街中で、おにぎり専門店を見かけたら、懐かしいながらも新しい味に出合えるはずだ。

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