外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。「日刊SPA!」では、これまで19か国、延べ11,000店舗へのコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。
今回のテーマは、「唐揚げブームとはなんだったのか」。記憶に新しい数年前のブーム時から一転して、減少の一途をたどる同業界の現状を、“プロ目線”で斬っていきます。どうぞお付き合いくださいませ。
◆唐揚げ店が急激に増えた二つの理由
数年前から「唐揚げブーム」というものが続いていましたが、これはもう終息したと言っていいでしょう。「唐揚げ店閉店ラッシュ」「唐揚げブームに陰り」などといった報道もよく見かけますよね。しかし、私はブームと言われ始めたころから、その終焉が見えていました。「ブームはいつか終わるもの」「ほかのブームに取って代わられる」といったような、ステレオタイプものではなく、長続きし得ない理由があるのです。
そもそも、なぜ唐揚げブームが起きて店舗数が急激に増えたのか。その理由は、①出店コストが安い②商品的に参入障壁が低い、そのため個人事業主や中小事業者などが参入しやすかったから、ということが挙げられます。さらに大手飲食チェーンの参入がより拍車をかけました。
◆そもそも大手が手を出す業態ではない
苦しんでいるのは、個人経営や中小事業者の店舗ばかりではありません。大手飲食チェーンが展開していた唐揚げ専門店も苦境に陥っているのです。一見、資本力のある大手のほうが有利に思えるでしょう。事実、大手は多店舗展開も早く、大きな話題にもなりました。ですが、唐揚げ専門店という業態は、そもそも大手が参入すべきものではないのです。
個人事業主の場合、小さな店舗でオーナーのみのワンオペ経営や家族による経営が可能です。一方、大手の場合、一店舗でも社員やパートなどを配置すると人件費が上振れしてしまいます。間接コストも高いため、損益分岐点も必然的に高くなります。実際、大手が展開している店舗は閉店が目立っています。ロードサイド型店舗などは唐揚げ以外の商品ラインナップが増えてレストラン化してしまい、もはや唐揚げ専門店ではなくなってしまいました。
個人事業主が参入しやすい業態に大手が手を出すべきではありません。唐揚げブームにおいてもレッドオーシャンに飛び込んでいくようなもので、大手が太刀打ちできるものではないのです。
◆家庭でも作れる「実用食」は外食・中食に不向き
私は食のジャンルを「実用食」「嗜好食」の2種類に分けて考えています。実用食とは日本人が日常的に食べたくなるもの、多くの国民が手を出しやすく食べ慣れているものです。うどんやカレー、ラーメン、スパゲッティ、回転寿司などが含まれるでしょう。一方の嗜好食は日本の文化に馴染みのないもの、高額なものなどです。タイ料理や高級フレンチ、割烹料理などが含まれます。
一般に外食や中食では、家庭で調理しにくい、もしくは調理しえないものが期待される傾向にあります。嗜好食はこれに当てはまるものが多く、外食や中食に向いているといえるでしょう。そういった意味では唐揚げは実用食ですが、家庭で作るのが面倒だという人も多く、外食・中食向きとも思えます。
ただ、それでも家庭で作ろうと思えば作れてしまうのが唐揚げです。またスーパーやコンビニエンスストアでもおいしい唐揚げを購入できます。冷凍食品の唐揚げを家庭で「レンチン」すればおいしく食べることもできます。つまり、外食・中食に期待するモチベーションが低いのが唐揚げなのです。
◆「残っている店舗」の特徴は?
個人事業主や中小事業者の店舗も閉店が相次いでいますが、閉店せずに残っている店舗もあります。
ひとつはブーム前から続いている老舗の唐揚げ専門店。高利益が見込めなくても唐揚げを作って売ることがライフワークのようになっている個人店などです。損益分岐点も低く、継続性があります。「ブームだから儲かりそうだ」「出店コストが安いから」と、便乗的に参入した店舗はほぼ撤退の憂き目を見ています。
もうひとつは好立地の店舗。目的来店ではなく衝動来店が見込める店舗ですね。にぎやかな商店街などの店舗は「ちょっと小腹が空いたから」「いい匂いに誘われて」と偶然立ち寄るお客さんが多くなります。
そして、商品のラインナップや味のバリエーションが豊富な店舗。コロッケやメンチカツ、焼き鳥などが並んでいる、唐揚げ以外のものも買える利便性の高い店舗です。また醤油唐揚げや塩唐揚げ、手羽先やチキン南蛮など味のバリエーションが豊富な店舗も継続性があります。店舗に行っても買えるのはモモ肉の醤油唐揚げだけ……となると、よほどそれが好きな人でなければ来店しなくなるでしょう。
◆ブームに便乗するだけでは生き残れない
唐揚げは「専門店」を名乗ることで消費者にもわかりやすく、実用食でもあるためスタート当初は好意的に受け止められるでしょう。しかし参入障壁が低いことがネックで、あっという間にレッドオーシャン化してしまいます。「ブームだから」という動機だけで参入し、付加価値もなく唐揚げ一本で勝負しようとした店舗は飽きられ、淘汰されてしまうのです。これは唐揚げに限ったことではないでしょう。
何かのブームが到来し、「自分もやってみよう」と思う人もいるかもしれません。その場合、まずはそれが実用食なのか嗜好食なのか、家庭で作れるものかそうでないか、スーパーやコンビニエンスストアと競合しないかなどを徹底的に分析することです。ブームに便乗するだけで継続性と高利益を見込めるほど、外食・中食の世界は甘くはないのです。
<TEXT/永田ラッパ>
【永田ラッパ】
1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ~食事を楽しく幸せに~』も好評配信中。