“喫煙所難民”はどこへ行く?「嫌われ者だからこそ」社会課題を解決する新たな挑戦

4月1日に全面施行された「改正健康増進法」により、飲食店などを含む屋内での喫煙が原則禁止に。受動喫煙をなくすために施行されたものではあるが、街の喫煙所は続々となくなり、カフェや居酒屋でも禁煙になる店が増えたため、“喫煙所難民”を生み出す結果となった。行き場をなくした喫煙者はどうすればいいのか、非喫煙者に迷惑をかけないためには――。そんな問題について、新たな喫煙所運営事業を展開する株式会社コソドの山下悟郎氏(代表取締役 CEO)に話を聞いた。

【写真】「快適すぎる…」“難民”に朗報!『THE TOBACCO』の様子

■「日本人は一体、どこで煙草を吸っているんだ?」需要と供給のミスマッチに疑問

 「改正健康増進法」では、望まない受動喫煙の防止を図るため、福祉施設・行政施設のほか、旅客運送事業船舶・鉄道、飲食店など屋内ではほぼ全面禁煙と定められた。管理者が講ずべき措置などについても書かれているが、施行にともない、全面禁煙となった飲食店も少なくない。駅前など、街にあった喫煙所も続々と撤去されていることから、“喫煙所難民”という新たな造語も生まれている。

 それらの問題を解決すべく、新たな喫煙所運営事業の一環として誕生したのが『THE TOBACCO』だ。クリーンでゆったりとした屋内のデザインはまるでカフェのようで、これまでの喫煙所のイメージは完全に覆されている。また、空気も驚くほど清潔。普通の屋内喫煙所は喫煙者からしても煙たいものだが、空調がしっかり機能しており、流れる音楽が訪れる者の心を安らがせる。利用は無料で、併設されたコーヒースタンドでは煙草やコーヒー、紅茶、ビールなどの飲料、オリジナルグッズなども販売されている。

 喫煙者への風当たりは年々強くなり、規制も厳しくなるなか、なぜこのような喫煙所運営事業を始めたのか。株式会社コソドの山下氏は語る。

 「以前よりは減ったとはいえ、日本の喫煙人口は意外と多いんです。調査によると2018年時点でおよそ1900万人が煙草を吸っています。さらにこれは日本人だけの問題ではなく、来日する外国人のうち、上位10カ国の平均喫煙率は24%弱。昨年、『ラグビーワールドカップ』が開催された際には、外国人による競技場周辺の煙草のポイ捨てが問題になりました。これは、日本では屋外も禁煙の場所が多く、さらには喫煙所がどんどん撤去されていることが一因なのではないでしょうか」

 「屋内でも禁煙となった今、外国人から『日本人は一体、どこで煙草を吸っているんだ?』と質問を受けたこともあります。今後、東京五輪が開催されれば、さらに多くの外国人が来日しますし、同時に喫煙者も増える。そんな状況で起こっている、需要と供給のミスマッチをなんとかしたいと思ったのです」

 実際、海外では屋内禁煙の国は多々あるが、屋外では吸えることが多い。規制が厳しいと言われるシンガポールでさえ、いたるところにあるゴミ箱の上に灰皿が設置されているのだ。以前、JTに話を聞いた際も、「日本は海外と比べても喫煙規制が厳しい」という見解であった。

 現在では、喫煙所で吸いたくても喫煙所がないことから、路上喫煙やポイ捨てが急増。店の中では吸えないため、店外に出て吸う客の姿もよく見かける。もちろん、「吸う場所がないなら我慢すれば良い」という指摘はもっともだ。だが、一律に厳しく規制したことにより、クリーンな世の中にしたい目的とは逆のベクトル…つまり、マナーの悪さに拍車がかかるような状況になってしまったとも言える。

 「この10年ほどで、喫煙者は驚くほど嫌われるようになってしまいました。マナーの悪い喫煙者もまだまだ多く、ポイ捨てや路上喫煙も減ってきたとはいえ、なくなってはおらず、煙草が嫌いな方々の気持ちも理解できます。私たちの運営メンバーの8割は非喫煙者で構成しており、吸う人と吸わない人で、一緒にこうした社会課題を解決する事業をやってみよいうということで本事業はスタートしました。時代の風潮に対する、“逆張り”をやってみたくなった面もありますね(笑)」

■喫煙所設置に前向きな千代田区と港区から開始、コロナ感染防止にも配慮

 現在、『THE TOBACCO』が設置されているのは、東京・神田と赤坂。需要が高いエリアということで、これらの場所が選ばれた。

 「30~50代の男性の約35%が喫煙者というデータがあり、その年齢層が多く通行するエリアを選びました。さらに言えば、神田がある千代田区、赤坂がある港区は、喫煙規制が厳しい分、実は喫煙所の設置に対して前向き。助成金の補助もあり、このエリアからのスタートになりました」

 とはいえ、コロナ感染拡大が問題になっている今、喫煙者が殺到し「クラスターが起こるのではないか」といった懸念も囁かれている。その点に問題はないのだろうか。

 「『THE TOBACCO』の特徴として、“有人”であることが挙げられます。スタッフが常駐しているので、確実な人数規制をかけることができる。また、給排気、空気清浄についても他の喫煙所とは異なる非常に高機能なマシンを設置しており、一時間に約40~50回、全容積の空気が入れ替わるオペレーションに。入り口の扉も、可能な限り外部に煙や空気が漏れないよう設計してあります」

 さらに、この喫煙所運営事業は、単に喫煙者のためになるだけではなく、地域の活性も期待できるという。

 「例えば、ビルの一階に喫煙所があると、その上の階にあるテナントの来客数が増えたという話があります。また商店街でも、人通りが少ない奥まった場所に喫煙所ができると、そこまで喫煙者が歩いていくため、周辺の店への来店きっかけが生まれる。喫煙所により人の流れが変わり、ビルや街の活性化の一助になる可能性があります。」

 また、『THE TOBACCO』自体は無料で開放されているが、収益化の見込みもある。集まってくるのが30~50代の喫煙者男性とターゲットが絞られているだけに、動画広告の出稿、なんらかのサンプリングにも利用しやすいと思われる。

 他にも、ビルやオフィス、飲食店への喫煙所の設置も想定している。喫煙所のオペレーションにはもちろん資金が必要だが、集客やマネタイズが予想されるということもあって、実際に設置を求める声は少なくない。

 「今、営業時間外の居酒屋を居抜きで借り、そこを我々の技術を駆使した喫煙所として使用するというプロジェクトもあります。居酒屋さんからは『収入に繋がるならランチ営業よりも良い』という声も聞かれますね。我々としても、一から喫煙所を作ったら膨大にかかる資金が節約できるため、まさにwin-winの関係だと思います」

■喫煙者と非喫煙者、両者の共存に必要なことは?

 “難民”となった喫煙者には朗報といえるこの事業だが、はたして喫煙者と非喫煙者の共存はできるのか。山下氏は「非常に厳しい嫌煙家もいますが、非喫煙者でも喫煙に寛容な人も意外と多い」と話す。

 「要は、“住み分け”ができるかどうかだと思います。煙草が嫌いな人の中には、ポイ捨てなどのマナーの悪さを挙げる方も多いですが、喫煙所があればポイ捨ても減る。喫煙者に染み付いた匂いが苦手という人もいますが、『THE TOBACCO』の空気清浄のオペレーションがあれば、それも最小限にできる。非喫煙者にも優しい、デメリット改善の一助になると思うのです」

 今後目指していくのは、店舗数の増加だ。「まずは山手線など主要駅の駅前に設置していきたい」と山下氏。今後は、同様に民営の喫煙所がどんどん増えていくとみている。喫煙者の喫煙場所の確保やマナー改善、非喫煙者に迷惑をかけない住み分けのためにも、これらの動きが成功し、双方が理解し合える世の中になることを願う。

(文:衣輪晋一)

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