回転ずし 円安で「1皿100円」に限界見え「豚丼」まで登場

高級素材のイベリコ豚を豪快にのせた丼が400円、同じくイベリコ豚入りでダシに深みを加えるとんこつラーメンは数量限定で360円也――。これは何も焼肉チェーンのメニューではない。3月7日から回転ずし店「くら寿司」で出されるイチオシのサイドメニューだ。
 くら寿司はコンビニで人気の煎れたてコーヒーを150円で始めるなど、1皿100円の寿司ネタより少しでも高価格帯のサイドメニューを充実させ、業績を伸ばしている。同店をチェーン展開するくらコーポレーションの2013年11月~2014年1月期の連結決算は、客単価がアップしたおかげで純利益は前年同期比で21%も増えた。
「もはや本業の寿司も100円均一だけでは商売にならなくなっている」と話すのは、外食ジャーナリストの中村芳平氏である。
「業界トップで全皿一律105円が売りだった『スシロー』でも昨年4月から高級ネタを1皿189円で販売する<スシローの吟味ネタ>を始めましたし、『元気寿司』系の『魚べい』も178円メニューを投入しています。シニア層をはじめ、景気回復基調によって少し値段は高くてもおいしい寿司が食べたいというグルメ志向が高まっているのです」(中村氏)
 それだけではない。寿司チェーンにとっては“高級”と謳わざるを得ない懐事情もある。
「100円で売る寿司ネタのほとんどは海外からの輸入で、昨今の円安によって原材料高に苦しめられている。そのうえ、昨年暮れに襲ったタイのバナメイエビ騒動によって、一時は看板からエビの文字を外そうかと思うほど値段が高騰して大変だった。エビに限らず高い仕入れの魚はそれなりの値段をつけないとやっていけない」(大手回転ずしチェーン幹部)
 いまだに全皿105円均一、ときにキャンペーンで「中トロ」なども同じ値段で提供する業界2位の『かっぱ寿司』は、やはり我慢の経営を強いられている。2期連続の赤字は必至で、「すべてのメニューの品質を見直す」(カッパ・クリエイトホールデイングス関係者)方針だという。
 もっとも、かっぱ寿司は今年中に前出の元気寿司との経営統合を果たし、スシローを抜いて一気に業界トップの規模に躍り出ることになりそうだが、先々の雲行きはどうも怪しい。
「かつてスシローやかっぱ寿司を買収しようと目論んで株式取得していたゼンショーホールディングスが、回転ずし店の経営に本気になっています。ゼンショーといえば牛丼チェーンの『すき家』が有名ですが、最近も公募増資で手に入れる予定の資金を傘下の『はま寿司』の出店拡大にあてると発表したばかり。業界の“台風の目”になっています」(前出・中村氏)
 確かに、はま寿司はゼンショーという強大な資本力をバックに、全メニュー1皿105円、平日は1皿90円という安さを保ったまま業績を伸ばしている。今後も他の大手チェーンを尻目に価格競争力を維持できれば、業界の勢力図はさらに入れ替わる可能性がある。
 低価格路線を維持するか、高級ネタで勝負するのか、はたまたラーメンやデザートなどサイドメニューで客を引き付けるのか。
「あまりにも無節操なサイドメニューを増やせば店のオペレーションが崩れて従業員(職人)の質が落ちるでしょう。かといって国内で獲れた魚をたくさん仕入れて高価格にしすぎれば、『すしざんまい』のような回転レーンのない寿司チェーンともガチンコ勝負になって圧倒的に分が悪いといえます」(中村氏)
 市場調査会社の富士経済によれば、回転ずしの市場規模は年々増え続けて5036億円(2013年見込み)ある。外食業界の中では今のところ好調をキープしているが、今年は消費増税も控えている。大手チェーンはしばらく難しい経営判断を迫られることになるだろう。

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