囲碁世界一! 8年ぶりの日本人棋士優勝に沸く碁界

白石と黒石を使って碁盤の上に石を置くゲーム。オセロとはちょっと違うんだよね。そういえば昔おじいちゃんがやっていたような……。囲碁に対する多くの人の印象はこんな感じだろう。なんとなく知ってはいるけど、実際はよくわからない人が多い。そんな囲碁の世界が今、8年ぶりに日本人棋士が世界一になったことで、盛り上がりを見せている。
 
 6月下旬、休日の昼下がり。日本中の囲碁ファンがテレビにかじりついていた。日本の囲碁のプロ棋士・井山裕太九段が世界一を賭けて戦っていたのだ。
 解説の棋士の一言に一喜一憂するファンたち。その熱気と興奮はまるで、日本がサッカーのワールドカップ決勝に勝ち進んだかのようだった。
 
 テレビ囲碁アジア選手権。日本・中国・韓国、それぞれのテレビ棋戦の優勝者・準優勝者が集まり、世界一を決める戦いである。日本は1989年の第1回から1994年の第6回大会までこの大会で6連覇していた。その後、中韓の棋士の活躍により日本の優勝回数が減少、2005年に日本の張栩九段が優勝したのを最後に、栄冠から遠ざかっていたのである。
 20年ほど前、世界で一番囲碁が強い国は間違いなく日本だった。日本と同じように囲碁のプロ組織がある中国や韓国の棋士と戦っても、負けることは少なかった。
 だが時代は変わり、早期英才教育に力をいれてきた中国や韓国で、若くて強い棋士がたくさん育ってきた。もちろん日本にも強い棋士はいる。だが中国や韓国の棋士とは数が違った。倒しても倒しても強い敵が出てくる……。国際試合の舞台でそんなイメージを持ち、厚い壁を感じた日本の棋士もいたという。
 いつしか国際試合において、日本は結果を残すことが少なくなった。決勝どころか2回戦で全選手が敗退して、悔しい思いをしたことも1度や2度ではない。
 そんな中での井山の活躍にファンは燃えた。25回目を迎える今大会は、日本2名、韓国3名、中国2名の合計7名の棋士による変則トーナメント戦。1回戦で井山が韓国の最強棋士・李昌鎬(イ・チャンホ)九段に勝ったとき、ファンはもしやと思った。そして同じ日本代表の結城聡九段が中国の江維傑(コウ・イケツ)九段に勝ったとき、これは夢ではないことを確信した。
 準決勝で結城が破れたものの、井山が勝って決勝進出を決めた。新しい時代が始まるのかもしれない。そう思った囲碁ファンも多い。
 決勝戦は、野球で言えばシーソーゲームのようなハラハラさせられる展開だった。だが韓国の朴廷桓(パク・ジョンファン)九段が自ら負けを認める宣言をし、井山の世界一が決まると、ファンは歓喜につつまれた。8年ぶりの世界一。それだけ待ち望んでいたということだろう。
 常に冷静な表情の井山だが、このときばかりはすこしほっとした表情を見せた。嬉しくないわけはない。24歳の若さで囲碁界を背負っている若きエースだ。どれだけのプレッシャーと戦っているかわからない。
 新婚の井山だが、家でゆっくりする時間も少ないだろう。国際試合で海外に行き、帰ってきたかと思えば、国内の地方都市でタイトル戦を戦う。スケジュール的にもかなり苦しいはずだが、棋士は対局しているときが何よりも幸せなのだというから不思議だ。
 囲碁の国内タイトルのうち、格が高く、主要タイトルと言われているものは7つあり(図参照)、そのうち、井山は現在5つのタイトルを持っている。このタイトルを狙いにくる挑戦者との七番勝負や五番勝負も戦わなくてはならない。
 世界一を目指しながら、日本では一番強い棋士として君臨し続ける。その道がいかに険しく苦しいものか……。だがファンは、さらなる世界での活躍と、国内の盛り上がりを期待している。

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